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市場下落のナラティブ(市場ストーリー)は的外れである可能性

市場下落のナラティブ(市場ストーリー)は的外れである可能性
〔要旨〕
  • 下落をめぐるナラティブ(市場ストーリー)には、ブロードコム売上高の「未達」、スペースXのIPO、そして好調な雇用統計の数値が含まれる
  • 調整が起きたことのより妥当な説明としては、テクノロジー(とりわけAI関連テクノロジー)に対するハードルが劇的に上昇した、ということが考えられる。期待が高まりすぎると、素晴らしい結果であっても失望を招きうる
  • 原油価格とインフレ期待が実際にピークを打ったのであれば、株式市場は再び拡大する可能性がある
1. ブロードコム売上高の「未達」

2. 投資家達がスペースX購入のために株式を売却している

3. 堅調な雇用統計とFRBの利上げ懸念

結論

注目の日程
 

ここ数週間、株式市場の上昇が「行き過ぎで、速すぎ」だという静かなささやきが広がっていました。主要なナラティブ(市場ストーリー)は、この上昇が現実に根ざしたものではなく、市場がファンダメンタルズとの接点を失っている、というものでした。多くの人が人工知能(AI)をめぐる不合理なバブルだと一蹴していたものが、実ははるかに大きな何かである可能性はさておき、私はこれを、不規則なチャットボットとのやり取りではなく、エージェント型AI、継続的な計算処理、そして恒常的かつシステム全体にわたる利用を支えるために必要なインフラへの構造的な転換と見ています。市場は2026年の大半を、こうした見方に追いつくことに費やしてきたように見えます1

金曜日の市場急落は、パーマベア(万年弱気派)にとってはそれ見たことかと大きな顔をする機会になりました。S&P500種指数は2.64%、ナスダックは4.18%下落しました2。今問われているのは、これが多くの人々が予想してきた長期的な下落の始まりなのかという点です。私はこれには、依然として懐疑的です。

印象的なのは、この下落に対して持ち出されている様々な説明ぶりです。よく見ると、いずれも私には、兆候というよりもナラティブ(市場ストーリー)を埋めているだけのように感じられます。

 

1. ブロードコム売上高の「未達」

ブロードコムの決算が、AI企業が期待に応えられなくなる予兆だと主張する向きもあります。しかしブロードコムのAI半導体の売上高は前年同期比で143%増加し、第3四半期の売上高見通しも前年比84%増と見込まれています3。これらは、過去のどの基準に照らしても並外れた数字だと言えます。毎四半期、市場の期待を超えるには、ハードルが単純に高すぎる場合もあるのです。従って、これをもって構造的なAI拡大の終焉と見なすのは、拡大解釈のように思われます。

2. 投資家達がスペースX購入のために株式を売却している

もう一つの説は、投資家が来たるスペースXの上場に向けて現金を確保しているというものです。しかしスペースXの浮動株は、約70兆ドルに上る米国株式市場のおよそ0.8%にすぎず4、相対的には誤差の範囲です。同社がただちにS&P500種指数に組み入れられるわけではなく、その浮動株は、米国のマネー・マーケット・ファンド(MMF)に滞留する約8兆ドルと比較すると微々たるものにすぎません5。投資家が流動性を求めているとしても、そのためにマグニフィセント・セブンを売却する必要があるとは考えにくいと思われます6

3. 堅調な雇用統計とFRBの利上げ懸念

17万2,000人の雇用者数増7は、経済の過熱を示す証拠と受け止められました。しかしこれは、過去10年間の月平均増加数30万4,000人を大きく下回っています8。また2003年以降、雇用者数は平均で上下いずれかに5万7,000人程度修正されてきました9。一方、原油価格は金曜日に下落し10、3年インフレブレークイーブンは2.53%まで低下しました11。これは私には、過熱した経済の姿のようには見えず、むしろ物価安定に近いように見えます。米連邦準備理事会(FRB)が利上げ準備を進めていると私に納得させるには、たった1回の雇用統計だけでは到底十分ではありません。

結論

市場はここまで力強い上昇を続けてきました12。ボラティリティが高まると、それを説明するためのナラティブ(市場ストーリー)を求めてしまうものです。FRBをめぐるストーリーは常にもっともらしく聞こえ、私自身、最終的には利上げが今回のサイクルを終わらせるとの見方を維持しています。ただ、それが今起きつつあるとは思えません。より妥当な説明は、もっと単純なものかもしれません:すなわちテクノロジー(とりわけAI関連テクノロジー)に対するハードルが、劇的に上がったというものです。期待が高まりすぎると、素晴らしい結果であっても失望を招きうるものです。

全てが失われたわけではありません。原油価格13とインフレ期待14が実際にピークを打ったのであれば、市場は再び拡大する可能性があります。金曜日のボラティリティが、構造的な弱さの兆候である可能性は低いでしょう。私にとってそれは、金曜日まで力強い上昇を享受してきた市場に参加するための「入場料」のようなものに過ぎません。

注目の日程

公表日

国・地域

指標等

内容

6月8日

米国

消費者期待調査

インフレ期待と家計のセンチメントに関する示唆

6月9日

米国

貿易収支(4月)

世界の需要動向と、貿易が成長に与える影響

6月9日

米国

卸売在庫(4月)

経済全体の企業需要と在庫サイクル

6月10日

米国

消費者物価指数(CPI)(5月)

FRBの政策見通しを形作る主要なインフレ指標

6月10日

中国

消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)(5月)

価格圧力と国内需要の動向

6月10日

中国

貿易統計(5月)

輸出需要と世界の成長環境

6月11日

米国

生産者物価指数(PPI)(5月)

川上インフレと消費者物価への潜在的な圧力

6月11日

ユーロ圏

欧州中央銀行(ECB)政策理事会

政策金利を決定し、中央銀行の政策経路を示唆

6月12日

米国

ミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)

消費者信頼感と支出見通しの適時指標

6月12日

英国

鉱工業生産(4月)

英国経済の生産と勢いを測定

6月12日

英国

貿易収支(4月)

外需と通貨圧力

6月12日

日本

鉱工業生産(4月、確報値)

製造業と輸出主導型活動の強さを示す

  • 1.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年6月4日、S&P500種指数の産業グループ「半導体・半導体製造装置」(+45.15%)および「テクノロジー・ハードウェアおよび機器」(+32.24%)の年初来リターンに基づく

  • 2.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年6月5日、S&P500種指数およびナスダック100総合指数の1日リターンに基づく

  • 3.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年6月5日

  • 4.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年6月5日

  • 5.

    出所:インベストメント・カンパニー・インスティテュート、2026年6月5日

  • 6.

    マグニフィセント・セブンとは、アルファベット、アマゾン、アップル、マイクロソフト、メタ、エヌビディア、テスラを指す

  • 7.

    出所:米国労働統計局、2026年5月31日、米国の非農業部門雇用者数の月次変化に基づく

  • 8.

    出所:米国労働統計局、2026年5月31日

  • 9.

    出所:米国労働統計局、2026年5月31日

  • 10.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年6月5日、米国ウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)スイート原油に基づく

  • 11.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年5月27日、米国3年物国債のインフレブレークイーブン金利に基づく。ブレークイーブンインフレ率は、一般的な国債利回り(名目)と同じ満期の物価連動国債(TIPS)の利回りの比較により算出される、市場が導き出す将来の予想インフレ率

  • 12.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年6月5日、S&P500種指数の年初来リターン(+7.86)に基づく

  • 13.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年6月5日、米国ウエスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)スイート原油に基づく

  • 14.

    出所:ブルームバーグL.P.、2026年5月27日、米国3年物国債のインフレブレークイーブン金利に基づく。ブレークイーブンインフレ率は、一般的な国債利回り(名目)と同じ満期の物価連動国債(TIPS)の利回りの比較により算出される、市場が導き出す将来の予想インフレ率

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MC2026-068