イラン紛争が続く中で、 長期的視点を保つ
〔要旨〕
- 歴史的文脈:地政学的な紛争が生じた際、まず最初に行うべきなのは、一歩引いて歴史を振り返り、文脈を把握すること
- 経済指標:直近の先行指標によれば、米国経済は相対的に堅調な状態を維持している
- リスクヘッジ:石油やその他コモディティへのエクスポージャーは、ホルムズ海峡の長期閉鎖リスクのヘッジに役立つ可能性がある
過去の紛争が市場に与えた影響
紛争開始時点の米国経済
イラン紛争の影響
長期的視点を保つ
注目の日程
「ノーヒットノーランの最中に投手に話しかけてはいけない。」私は験担ぎを信じるほうではありませんが、これは信じています。私たちのチームが、昨年秋から作成を開始した2026年の市場見通しで示した見解を再度確認した1週間前にも、私は似たようなコメントをしました。その頃、世界経済は堅調な勢いを保っており1、インフレは抑制されているように見え2、既に世界の多くの国々が金融緩和に転じた後を受けて、米連邦準備制度理事会(FRB)は利下げに向かう態勢にあるように見えました。私たちが市場見通しで導きだした結論は明快で、シクリカルセクター、中・小型株、そして米ドル建てではない資産を選好するとしました。2カ月で1年が決まるわけではありませんが、2月27日時点で私たちの見通しは概ね的中しており3、自信を深め、いわゆる「ノーヒットノーラン」が進行しているような状況でした。ところが2月28日、イランをめぐる紛争が始まり、思わぬ「変化球」が投げ込まれた形となりました。
過去の紛争が市場に与えた影響
地政学的な紛争が生じた際、まず最初に行うべきなのは、一歩引いて歴史を振り返り、文脈を把握することです。主要な紛争発生後の1年間で、株式市場がプラスのリターンを記録することがしばしばありました4。1991年の湾岸戦争や、2003年の米国・イラク戦争の例がよく引き合いに出されます。
1973年の第4次中東戦争(ヨム・キプール戦争)や、2022年に始まったロシア・ウクライナ戦争のように、1年後に市場が下落した例を挙げる投資家もいます。しかしいずれの場合も、経済が脆弱な状態から紛争に突入していました。どちらも、開始時点で米国のインフレ率は7%を超えていました5。景気循環を終わらせてきたのは、概して金融引き締めであり、地政学的ショックでは通常ありません。
紛争開始時点の米国経済
現在、米国経済は相対的に堅調な状態を維持していると考えられます。今週公表された先行指標(ISM製造業・サービス業購買担当者景気指数を含む)は、サービス業が引き続き牽引役となり、製造業が拡大領域へ向けて回復しつつあることを示しました6。製造業の支払価格指数は、関税の影響下で予想どおり高くなりましたが7、より広範なインフレ期待は抑制された状態を維持しました8。この抑制状態は、FRBに利下げ余地をもたらす可能性が高いと考えられます。
2月の雇用データは、冬の嵐や医療セクターの混乱の影響で弱含みとなりましたが、より重要なシグナルは、解雇の増加が見られなかったことでした9。労働市場が弱含んでいても崩壊していなければ、金融政策の対応余地は残ります。総合的に見てこれらのデータは、リスク資産にとって引き続き有利となる可能性が高いと考えられます。
イラン紛争の影響
イラン紛争の影響について考える中で、とりわけ懸念され、かつ起きないとは言い切れないシナリオが一つ浮かび上がりました。ホルムズ海峡の長期閉鎖、サウジアラビアやカタールを含む湾岸諸国のエネルギー生産に多大な混乱をもたらす紛争拡大、そして原油・天然ガス価格の持続的な上昇を伴うシナリオです。このような展開は経済活動を損ない、インフレを押し上げると予想されます。キーワードは「長期化」と「持続」です。現状がいつまで続くかは誰にも分かりません。一方でほとんどの投資家は、エネルギー市場の一時的な混乱よりもはるかに長い時間軸で運用を行っています。
これらのリスクをヘッジする、明確で確立された方法も存在します。石油や天然ガスへのエクスポージャーは、エネルギー価格上昇を相殺する助けとなり得ます。アルミニウムや穀物など、ホルムズ海峡経由で輸送される他のコモディティも同様の役割を果たす可能性があります。金は地政学的リスクに対するヘッジ手段となる可能性があり、世界的なストレス局面では米ドルが上昇する可能性があります。投資家がポートフォリオ内でこれらのリスクを管理・ヘッジすることは、充分に合理的です。
しかしながら、景気循環の終盤に見られる典型的な兆候はまだ確認されていません。たとえば、信用スプレッドはタイトな状態を維持しています10。1週間前ほど前向きな見通しは持てないかもしれませんが、重要指標にストレスの兆候がないか、私たちは注視しています。
長期的視点を保つ
今後1年の見通しは、1週間前ほどは前向きになれない状況であり、重要指標にストレスの兆候がないか、私たちは注視しています。
当面は、適切な場合にリスクヘッジを行い、規律を保ちつつ、長期投資にとって必要なことは市場が不安になっても計画を堅持することであると肝に銘じることです。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
3月9日 |
中国 |
消費者物価指数(CPI)公表 |
世界市場に影響する |
3月9日 |
日本 |
国内総生産(GDP)数値 |
経済成長指標 |
3月10日 |
米国 |
中古住宅販売件数(2月) |
住宅市場指標 |
3月11日 |
ドイツ |
CPI公表 |
インフレ指標 |
3月11日 |
英国 |
イングランド銀行インフレ報告公聴会 |
金融政策に関する示唆 |
3月11日 |
米国 |
CPI(2月) |
主要インフレデータ |
3月12日 |
英国 |
イングランド銀行総裁講演 |
政策シグナル |
3月12日 |
米国 |
生産者物価指数(PPI) |
生産者インフレ |
3月13日 |
カナダ |
雇用統計(2月) |
雇用環境 |
3月13日 |
米国 |
第4四半期GDP改定値(第2次推計) |
経済成長見通し |
3月13日 |
米国 |
コア個人消費支出(PCE) |
インフレ指標 |
3月13日 |
米国 |
ミシガン大学消費者信頼感指数 |
消費見通し |
MC2026-030