原油ショックにもかかわらず、経済・市場シグナルは安定を保っている
〔要旨〕
- 地政学的リスク:中東紛争と石油供給の混乱が市場を圧迫し、投資化心理を試す局面になっている
- 指標は依然として安定:クレジット・スプレッド、インフレ期待、利下げの想定はより厳しい状況になりつつあるが、まだ警告シグナルを発しているわけではない
- 過剰反応への注意:歴史的に市場は紛争後に回復してきた。忍耐強く選択的にヘッジを行うことが、高まるリスクの管理に役立つ可能性がある
明確な警告サインはまだ見られていない
注目の日程
ジョン・メイナード・ケインズは、「事実が変われば、私は考えを変えます。あなたはどうしますか?」と述べたとされています。彼が実際にそう言ったという証拠はありませんが、ケインズは考えを変えることを恐れない人物でした。実際、英国議会が6人の経済学者に意見を求めると、常に7つの答えが返ってくる—そのうち2つはジョン・メイナード・ケインズのものだ、という古くからのジョークがありました。
世界経済の「事実」は、変化しつつあります。同時に、投資家を悩ませている問題について、私から2つの異なる回答を示したくはありません。問題は、イランとの紛争が世界経済とシクリカル資産に対する私の楽観的な見方を変えさせるかどうかという問いに対する答えが、私の望む以上に、トランプ政権やイスラエル、そしてイランの判断に依存しているという点です。
では、どのような事実が変わったのでしょうか?
ホルムズ海峡は事実上閉鎖されています1。世界の石油の約20%がこの海峡を通過しています2。直接的な攻撃による影響に加え、直ちに出荷できなくなったことで残りの貯蔵容量に限りがあることから、湾岸諸国による生産は大幅に減少しています3。戦略石油備蓄が利用可能であることは助けにはなりますが、それも限られた期間にすぎません。その計算は単純です。
- 世界は1日あたり約1億バレルの石油を消費しています4。
- ホルムズ海峡の閉鎖により、現在1日あたり約2,000万バレルが供給できなくなっています5。
- 政府が管理する戦略石油備蓄量は約12億バレルに相当します6。
- 12億÷2,000万=60。
つまり、戦略備蓄の総量は、不足分の供給の約60日分を賄える規模となります。さらに問題を複雑にしているのは、国際エネルギー機関が最近4億バレルの放出を発表したことを踏まえると7、より適切な数字は20日かもしれないということです。トランプ政権はまた、石油価格の高騰を抑える取り組みの一環として、米国内の港湾間での貨物輸送に米国製船舶の使用を義務付けるジョーンズ法の一時的な適用免除を計画しています8。これは多少の助けとなる可能性はありますが、現在の問題の根本的な解決策にはなりません。紛争が20日から60日を超えて続くかどうかは誰にもわかりません。もしそうなれば、「事実」は本当に変わります。そのシナリオでは、紛争開始までは順調だった9、2026年の私たちの中核的な見通し―シクリカル資産が市場全体をアウトパフォームし、米ドルが下落―が、深刻な試練に直面することになるでしょう。
明確な警告サインはまだ見られていない
ここで、私の2つ目の答えに移ります。
まず、ほとんどの投資家の投資期間というのは、今回の紛争で想定される継続期間よりもはるかに長い可能性が高い、というのが出発点となります。また、紛争に入る前の経済的背景がおおむね健全だった場合、地政学的ストレスがピークに達した後の1年間、市場は歴史的にそれなりに好調なパフォーマンスを示してきたことも認識する必要があります10。さらに、私たちが選好する指標を率直に点検する必要があります。それらはより厳しい状況になりつつありますが、まだ明確な警告サインを発しているわけではありません。
- クレジット・スプレッドはやや拡大しましたが、過去の水準からみると依然としてタイトとなっています11。
- インフレ期待は上昇し、5年ブレークイーブンは現在2.65%を上回っていますが、これはまだ相対的な物価安定と呼べるレンジ内にあります12。
- 市場は依然として、米連邦準備理事会(FRB)による年内2~3回の利下げを織り込んでいます13。
- 原油のフォワードカーブは調整され、6カ月先および12カ月先の価格は上昇しましたが、依然として現在のスポット価格を下回っています14。
- 米ドルは上昇しましたが、2025年初の水準を依然として大きく下回っています15。
これらはいずれも、現在の状況を美化するものではなく、市場が、「紛争がいつ終わってもおかしくない」ことを認識していることを示すものです。私は自身の行動バイアスを抑え、劇的な行動を取らないようにしたいと考えています。私たちは楽観的見方を維持しつつ、シクリカル資産に対するリスクが高まっていることを認識しています。適切な場面で、ヘッジをご検討ください。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
3月16日 |
中国 |
鉱工業生産、小売売上高(2月) |
経済活動の主要指標 |
3月16日 |
カナダ |
消費者物価指数(CPI)(2月) |
インフレ指標 |
3月17日 |
米国 |
小売売上高(2月) |
個人消費 |
3月18日 |
米国 |
生産者物価指数(PPI) |
生産者インフレ |
3月18日 |
カナダ |
カナダ銀行(BOC)政策金利決定 |
金融政策スタンス |
3月18日 |
米国 |
FRB政策金利決定 |
市場の主要材料 |
3月19日 |
日本 |
日本銀行(BOJ)政策金利決定 |
金融政策スタンス |
3月19日 |
英国 |
雇用統計 |
雇用動向 |
3月19日 |
英国 |
イングランド銀行(BOE)政策金利決定 |
金融政策スタンス |
3月19日 |
ユーロ圏 |
欧州中央銀行(ECB)政策金利決定 |
EU金融政策スタンス |
3月20日 |
中国 |
中国人民銀行(PBOC)政策金利決定 |
経済状況 |
MC2026-033