市場が求めるのは完璧さではなく、方向性
〔要旨〕
- 市場はリスクを否定しているわけではなく、高インフレ数値から地政学的緊張に至るまで、多くのショックが懸念されていたほど壊滅的ではないと見極めているに過ぎない
- 混乱は必ずしも衰退を意味するわけではない。サプライチェーンの再編、産業政策、AI投資サイクルはいずれも、ストレス環境下においても適応や再生と共存し得ることを示唆している
- 歴史は直線的ではなく循環的に展開する傾向があり、混乱の局面は投資家にとって、より建設的な局面への礎となる可能性がある
古い前提が問われる時、機会が生まれ得る
市場が求めるのは完璧さではなく、方向性
注目の日程
現在の奇妙な現象の一つは、見出しが絶え間なく不安を煽り続けているように感じられる一方で、市場が上昇を続けているという点です。私はこの矛盾した状況について考え続けています。会議での私のプレゼンテーションのタイトルは、「混乱した世界」というもので、暗澹たる印象を与えるかもしれません。あるクライアントは悲観的なメッセージを予想していたと述べましたが、実際に目にしたのは、楽観的なメッセージでした。それは現実離れした夢想的なものでもなければ、リスクを無視したものでもありません。むしろ、混乱が必ずしも衰退を意味するわけではない、という考えに根差したものです。時として混乱は、適応を意味することもあり、新たな局面の始まりとなることもあります。結局のところ歴史は直線的ではなく、サイクル(循環)で動くものなのです。
私にとってはこれが、市場が恐ろしい見出しを無視しているように見えつつも、不合理な動きをしていない理由を理解する上でベストな方法です。市場は悪材料のない世界を必要としているわけではない、というのが私の見方です。市場が必要としているのは、事態が懸念されたほど悪くないことが証明されることだと考えられます。先週の米国の生産者物価指数(PPI)は、4月に前月比1.4%、前年同月比で6.0%上昇しましたが1、これは決して取るに足らない数字ではありません。しかし、地政学的な問題と同様に、投資家は「これはシステミックな事態の始まりなのか、それとも吸収可能なストレスなのか?」と問いかけているようです。現時点では後者のようです。世界の企業収益は依然として成長しており2、消費は大方の懸念よりも持ちこたえており3、AI投資サイクルは引き続き勢いを維持しています4。
古い前提が問われる時、機会が生まれ得る
もっと大きなポイントがあります。私は、混乱した世界は、それでもなお、投資可能な世界であり得ると考えています。実際、まさに古い前提が問われる時にこそ、最も興味深い機会が生まれ得るのです。私は、グローバル化は終焉に向かっているのではなく、形を変えつつあると考えています。サプライチェーンが再編され、エネルギーシステムが見直され、産業政策が復活し、資本は純粋な効率性よりも回復力へと向かっています。これらはいずれも、特に整理された、心地よい状況というわけではありません。インフレを招き、政治的な騒動を引き起こし、不均衡を伴う可能性もあります。しかしシステムは、往々にしてストレスを経ることで進化してきました。緊張の局面は、同時に再生の土台が築かれてきた局面でもあったのです。
だからこそ私は、サイクルという概念に繰り返し立ち返ります。ニール・ハウの「フォース・ターニング(第四の節目)」の枠組みは、歴史は直線的に進むものではないということを思い起こさせる点で、私の考え方に影響を与えてきました。秩序の局面は激動の局面に取って代わられ、激動はより建設的な局面に向けた環境を作り出す可能性があります。私はこれを、未来予測装置のように使うつもりはありませんし、そのような人がいれば身構えるでしょう。しかし物事を見る一つのレンズとしては、有用となり得ます。政治的分断、世代間の不満、制度の歪み、そして経済の再編は、いずれも今日の背景の一部であるように私には感じられます。私が言いたいのは、至る所に危機があるということではなく、混乱が、再生の初期の枠組みと並存し得るということです。
市場が求めるのは完璧さではなく、方向性
今日、そうしたダイナミクスはいくつかの場面で見られます。地政学的な要因が介入した場合でも、市場は、事態がエスカレートするのか、それとも安定に向かうのかという点により関心を寄せているように思われます。最近北京で行われた、米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席による首脳会談はその一例です。大きな進展はありませんでしたが、関係の悪化もありませんでした。多くの場合、それで十分なのです。市場は完璧さを求めているようには見えません。私は、市場が求めているのは方向性であり、システムが崩壊しつつあるのではなく、歪みが見られているに過ぎないという証拠であり、不確実性が消え去ったわけではないにせよ、管理可能だとの兆候だと考えています。
投資家にとっての実践的な教訓は、リスクを軽視したり、世界が平穏であるかのように装うことではありません。実際そうでないのは明らかです。重要なのは、市場は概して将来を見据えており、その日の感情的な温度感よりも変化の方向性に関心を持つ場合が多い、ということを肝に銘じることです。ニュースを見て安心できるまで待つような投資家は、たいていの場合、市場が既に先に進んでいることに気付くことになるでしょう。私はよく、「人間の本性の中のより良き天使たち」という本を思い出します。世界は実際よりも恐ろしく見えることがありますが、それは問題が非現実的だからではなく、多くの人々がそれについて十分な情報を得ているからです。これは、混乱した世界かもしれませんが、必ずしも衰退しつつある世界だとは言えません。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
5月18日 |
中国 |
鉱工業生産および小売売上高 |
世界の主要経済国の工場活動と消費需要を示す |
5月18日 |
日本 |
国内総生産(GDP) |
日本経済が勢いを増しているか失っているかを示し、金利見通しに影響し得る |
5月19日 |
英国 |
労働市場データおよび賃金 |
雇用環境と、インフレに影響し得る賃金圧力に関する示唆 |
5月19日 |
カナダ |
消費者物価指数(CPI) |
カナダ銀行(BOC)の政策見通しを形成し得る主要なインフレ指標 |
5月20日 |
米国 |
米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨 |
FRB当局者がインフレ、成長、金利をどう見ているかの詳細を提供する可能性 |
5月20日 |
中国 |
中国人民銀行政策金利決定 |
成長、流動性、与信環境に対する政策スタンスを示す |
5月20日 |
英国 |
消費者物価指数(CPI) |
イングランド銀行の政策リスクを評価する上で重要なインフレ指標 |
5月21日 |
米国 |
フィラデルフィア連銀製造業景気指数 |
米国の工場環境と、より広範な企業センチメントを早期に示す指標 |
5月21日 |
ドイツ |
購買担当者景気指数(PMI)、速報値 |
欧州最大経済国の製造業・サービス業のモメンタムに関する早期シグナル |
5月21日 |
ユーロ圏 |
購買担当者景気指数(PMI)、速報値 |
域内活動が安定化に向かっているか減速しているかを測るのに役立つ |
5月21日 |
英国 |
購買担当者景気指数(PMI)、速報値 |
直近のインフレおよび労働データ発表後の、企業活動のタイムリーな指標 |
5月22日 |
米国 |
中古住宅販売件数 |
住宅市場の活動を追跡し、借入コストの影響に関する追加的な手がかりを与える |
5月22日 |
英国 |
小売売上高 |
消費支出の底堅さの度合を示す |
MC2026-062