米国債利回りの上昇:崩壊ではなく再調整
〔要旨〕
- 米国債利回りの上昇は、米国債務に対する信認の崩壊ではなく、成長とタームプレミアムを背景とした再調整を反映したものと見受けられる
- エネルギー価格の上昇にもかかわらず、長期インフレ期待は比較的抑制された水準を維持しており、多くの投資家が依然としてインフレは抑制可能と考えていることを示唆しているようだ
- 市場は現時点で広範なストレスの兆候を示していない。米国債入札、米ドル、クレジット・スプレッド、株式はいずれも、市場が大きな混乱を伴うことなく金利上昇を概ね消化してきたことを示唆している
米国債利回りの上昇が意味し得るもの
より広範な市場の反応が重要な理由
注目の日程
私の両親は、テレビ番組「サンフォードと息子」のファンでした。レッド・フォックスが出演するこのコメディは、1972年から1975年までNBCで放映され、私が生まれる直前に終了しました。私自身は一度もエピソードを見たことがありませんが、それでもこの番組は、私の子供時代の一部となっていました。両親は常にこの番組のセリフを口にしていました。何か問題が起こったとき、あるいは子供が親をびっくりさせるようなことをしたときには必ず、彼らは胸を押さえ、背もたれに寄りかかり、芝居がかった様子で苦悶しながら「ビッグ・ワン(大発作)だ。聞いたかい、エリザベス。私もそちらへ行くよ」と宣言したものです。もちろん、フレッド・サンフォードも私の両親も、心臓発作を起こしていたわけではなく、状況に対して大袈裟に反応していただけでした。
先週、私はふとこのセリフのことを思い出しました。
米国債利回りの上昇が意味し得るもの
米国債利回りの上昇を受け、投資家コミュニティの一部で見られた反応は、既視感を感じさせるものでした1。ついにその時が来たのかもしれない、という感覚が漂いました。すなわち、長らく予想されてきた米国債市場の崩壊です。財政赤字が問題視され、買い手が姿を消し、金利が経済成長率を大きく上回って急騰し、あらゆる資産クラスでバリュエーションが調整される瞬間です。言い換えれば、「ビッグ・ワン(市場が警戒すべき大きなリスク)」です。
この考え方は、目新しいものではありません。私のキャリアが始まったおよそ30年前から、そのさまざまなバリエーションを耳にしてきました。常に言われてきたことは、米国の債務は持続不可能であり、金利は最終的にその現実を反映せざるを得ない、というものでした。それにもかかわらず、今もって、懸念されてきた崩壊は現実のものとなってはいません。
足元の金利動向は、その背景にある要因が重要であることから、丁寧に解きほぐすに値します。これが本当に「ビッグ・ワン」であるならば、インフレ期待のアンカーが外れた(安定的に維持されない)状態になることが予想されます。エネルギー価格の急騰にもかかわらず2、そうした事態は起きていません。インフレ期待は、比較的抑制された状態を維持しています3。これは重要なシグナルであり、多くの投資家が依然として、インフレは長期的には抑制可能との確信を持っていることを示唆しています。
むしろ利回りの上昇は、成長期待の緩やかな強まりと、タームプレミアムの上昇が相まった状態を反映したものと見られます。成長要因については、企業収益の観点から見ればさほど驚くべきものではありません。米国企業の収益はこれまでのところ底堅さを維持しており、経済が引き続き堅調な基盤を保っているとの見方を裏付けています4。
タームプレミアムについては、より微妙なニュアンスを帯びています。調整の一部は、米連邦準備理事会(FRB)が金融引き締めをより長期にわたり維持する必要がある、あるいはさらに利上げを行う可能性さえあるとの見方と結びついているようです。市場はそうした可能性を織り込みつつあります5。しかしまた、こうした見方を懐疑的に見る余地もあります。長期インフレ期待が引き続き抑制されている中で、FRBが最終的に市場が想定しているほど強硬な姿勢に傾く必要があるかどうかは定かではありません。
より広範な市場の反応が重要な理由
おそらく最も重要なのは、私の見るところ、より広範な市場の反応が、真のストレスイベントで見られるようなものと一致しないという点です。米国債の入札は概ね問題なく消化されており6、これは、多くの投資家が米国債務への資金供給から距離を置きつつあるとの見方を否定する根拠になると考えられます。米ドルは今月上昇基調で推移していますが、これは通常、米国資産に対する信認が喪失している場合は見られない示唆です7。またクレジット・スプレッドは引き続きタイトとなっており、投資家がリスクに対して大幅に高いリターンを求めていないことを示しています8。そして株式は、大きな混乱を伴うことなく、金利上昇を消化できています9。
レッド・フォックスには申し訳ないですが、私にはこれが「ビッグ・ワン」のようには見えません。私たちが目にしているのは、崩壊というよりも再調整に近いものです。ガソリン価格の上昇は、今後数カ月にわたり成長の足かせとなる可能性が高く、時間の経過とともに金利低下を後押しすると予想されます。「サンフォードと息子」の結末は、思い出す価値のあるものでした。フレッド・サンフォードは、数々のドラマチックなエピソードを経て命を落とすかわりに、高校の卒業式で卒業生代表スピーチを行って物語を締めくくったのです。「ビッグ・ワン」は結局、訪れませんでした。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
5月25日 |
米国 |
メモリアル・デー祝日 |
米国市場は休場 |
5月26日 |
米国 |
消費者信頼感指数 |
家計のセンチメントと消費支出見通しに関する手がかりを提供 |
5月28日 |
米国 |
国内総生産(GDP)、個人所得、個人消費支出(PCE)インフレ |
成長、支出、インフレに関する重要なデータ群であり、FRBの見通しを左右し得る |
5月28日 |
米国 |
耐久財受注および新規失業保険申請件数 |
企業需要と労働市場を測るのに役立つ |
5月28日 |
日本 |
東京都区部消費者物価指数(CPI) |
インフレ動向と日銀政策への示唆の早期シグナル |
5月29日 |
ユーロ圏 |
インフレデータ |
欧州中央銀行(ECB)の政策見通しと金利経路に影響し得る |
5月29日 |
英国 |
住宅ローン承認件数 |
英国経済における住宅活動と与信環境に関する示唆を提供 |
5月31日 |
中国 |
購買担当者景気指数(PMI) |
中国の製造業・サービス業活動が改善しているか弱まっているかを示す |
MC2026-065