グローバル・ビュー

SVB破綻でグローバル金融市場の構図が一変

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要旨
SVBの破綻によって金融市場の焦点が変化

シリコンバレー銀行(以下ではSVBと記します)やシグネチャー銀行の破綻をきっかけとして、同種の問題が他の金融機関に伝播(でんぱ)するという懸念がグローバルに強まってきました。クレディ・スイス・グループの経営問題も金融システムの安定への懸念を強めており、金融市場ではリスク回避的な動きが強まっています。このため、金融システムの安定が中心的な政策課題として急浮上してきました。これまでのFRB(米連邦準備理事会)の対応は迅速かつ適切でしたが、まだリスクは残っています。

金融市場では米金融政策についての見方が大きく変化

FRBによる今後の対応として、金融市場で最も注目されているのが、FRBの金融政策がこれまで想定していたよりもハト派化する可能性がある点です。既に金利先物・スワップ市場では年後半の利下げが織り込まれています。SVB等の破綻を契機として信用の伸びが鈍化し、景気に悪影響が及ぶのではという見方が出てきていることがその背景です。金融市場が金融システムの安定性について自信を取り戻すには少なくとも1~2カ月は必要と見込まれます。

FRBは短期的には金融システムの安定性を最優先か

私は、短期的にはFRBは金融システムの安定性をより重視する政策を実行しつつも、金融システムの安定性が確保されるような環境となれば、インフレ抑制を目指す方向性に重心を移す公算が大きいと見込んでいます。今後を見通す上では、3月21~22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で公表されるインフレ・政策金利の見通しがいつも以上に重要であり、金融市場への影響が大きいと見込まれます。

 

SBVの破綻によって金融市場の焦点が変化

 シリコンバレー銀行(以下ではSVBと記します)やシグネチャー銀行の破綻をきっかけとして、同種の問題が他の金融機関に伝播(でんぱ)するという懸念がグローバルに強まってきました。米国では、3月12日に米規制監督当局が全ての預金を保護する決定をしたことで、銀行預金取り付けが連鎖的に発生するという最悪の事態は回避されました。しかし、金融市場の懸念は消えませんでした。 3月15日には、クレディ・スイス・グループの株価が24.2%下落し、欧州の金融機関の株価全体の下落を引き起こしました。米国の大手地方銀行の一部でも大幅に株価が下落する事態となっています。

 こうした状況下で、グローバル金融市場の焦点はSVB問題発生前と比べて変化することになりました。SVB問題発生前は、FRB(米連邦準備理事会)にとっての最大の懸念材料は高インフレの問題であり、景気の悪化を覚悟する形での積極的な利上げをどこで停止し、その後、どのようなペースで利下げを実施するかが金融市場の焦点でした。 SVB問題の発生後も高インフレ問題が引き続き重要であることには変わりはありませんが、金融システムの安定が中心的な政策課題として急浮上しています

 金融システムの安定が問題になっているのは、SVBなど2行の経営が破綻したことで、同様のケースが再び発生する可能性が意識されているためです。金融システムの安定性に対する懸念が台頭してきたことに対し、FRBは問題の他銀行への波及を食い止めるため、迅速な対応を実施しました。第1に、銀行が流動性の面で困難に陥ることのないよう、FRBは、3月12日に銀行向けターム資金調達プログラム(BTFP:Bank Term Funding Program)というプログラムを3月12日に新設しました。これは銀行が債券を担保に、債券の市場価値ではなく額面までFRBから借り入れることができるプログラムであり、銀行にとっては流動性不足への対応能力を大きく強化するものとなります。FRBが本格的に対応に乗り出したことで、現時点では、預金の取り付けは生じていない模様で、FRBによる金融システム安定化策は功を奏していると言えます。第2に、FRBは、SVBに対する規制・監督をレビューする調査を行い、5月1日までに公表するとアナウンスしました。SVBはカリフォルニア州の免許に基づく州法銀行ですが、主たる規制・監督はFRBが担ってきました。米国議会では、今回の銀行破綻を受けて、SVBへの監督を直接担当するサンフランシスコ連銀による銀行監督が適切であったかどうかを巡って不信感が出ている模様です。議会としては、規制強化に向けた法改正を視野に入れて審議していくと考えられ、FRBへの批判が強まる可能性があります。まずはFRB自身でレビューをするとの方針は議会での今後の動きに対するFRBとしての防御的な動きと考えられます

 クレディ・スイスに対する金融市場の懸念も、国際的な金融システムの安定についての不透明感をもたらしています。クレディ・スイスは、各国の規制監督当局・国際機関から構成される金融安定理事会によって「グローバルなシステム上重要な銀行」と位置付けられている大規模金融機関であり、2008年に破綻したリーマンブラザースと同程度の規模です。このため、クレディ・スイスの経営問題は2008~2009年にかけての世界金融危機を想起させており、足元での金融市場において非常に強いリスク回避的な動きをもたらしています。今後、各国の規制監督当局や中央銀行は主要な金融機関の破綻を回避する方向で協調して対応することが予想されますので、世界的な金融危機の再発は防ぐことができると見込まれます。仮にドル資金が国際的に不足するような事態が生じる場合には、FRBが各国中銀へのスワップラインを再設定してドル資金供給に乗り出すと考えられます。
 

金融市場では米金融政策についての見方が大きく変化

 一方、FRBの今後の対応として、金融市場で最も注目されているのが、FRBの金融政策がこれまで想定していたよりもハト派化する可能性がある点です。SVB破綻の根本にあるのはFRBが非常に速いペースで利上げを実施し、その結果として、長短金利が逆転し、銀行のバランスシートや収益に悪影響が及んだ点でした。今後も利上げを継続する場合、長短金利の逆転や長期債価格の下落、そして金融機関の貸出態度の消極化を通じて金融機関経営への悪影響を拡大させる力が働くことになります。FRBがこれらの点を考慮して金融引き締めに消極的になるとの見方が金融市場で台頭してきました。

 金利先物市場では、先週水曜日(3月8日)の段階では2023年通年でのFF金利引き上げ幅についての織り込みが1.25%に達していましたが、これは3月15日には-0.58%にまで低下しました。年央までに0.19%の利上げが見込まれる一方、年後半には0.77%の利下げが織り込まれています(図表1)。スワップ市場における2~3年先のFF金利についての想定も大きく低下し、一時は4%台であった米10年国債金利は3月15日時点で3.45%に低下しました(図表2)。複数の銀行が破綻したことで、米国金融市場ではリスク回避的な動きが広がり、株式が下落するとともに、債券市場に資金がシフトしました。リスク回避的な動きはグローバルに拡散し、ここ数日間に欧州各国でも長期金利が米国とほぼ同じ程度に低下しましたが、米国の短期金利についての見通しの下方修正幅が欧州金利よりも大きかったことで、ドル安が進行しています。

(図表1)米国:金利先物市場が織り込む2023年中のFRBによる政策金利引き上げ幅
(図表2)米国:10年国債金利とスワップ市場が織り込む2年先、3年先のFF金利

 米国におけるリスク回避的な動きの背景には、今回の出来事によって信用の伸びが鈍化し、景気に悪影響が及ぶのではという見方が出てきていることがあります。SVBのように受け入れ預金に占める法人預金比率が高めの銀行は、法人預金の引き出しに備えて手元流動性を積み上げるために貸出に対して消極的になる可能性があります。また、今回の銀行破綻を受けて、預金者の間で中小・中堅規模の銀行から大規模な銀行に預金を移す動きが出る可能性もあります。さらに、今後の予想される金融機関への規制・監督の強化によって、銀行の貸出が消極的になるリスクがあります。仮に、これらの要因によってクレジット・クランチ(貸し渋り)が生じるような場合は、米国景気が景気後退に陥る公算が大きくなるため、金融市場における警戒感が強まったと考えられます。この点を考慮すると、金融市場が金融システムの安定性について自信を取り戻すには少なくとも1~2カ月は必要と見込まれます

 

FRBは短期的には金融システムの安定性を最優先か

 FRBにとっては、インフレ抑制を目指す観点からは高水準の政策金利を維持することが望ましいものの、金融システムの安定性を確保する観点からは政策金利を抑えることが望ましいという状況となりました私は、短期的にはFRBは金融システムの安定性をより重視する政策を実行しつつも、金融システムの安定性が確保されるような環境となれば、インフレ抑制を目指す方向に重心を移す公算が大きいと見込んでいます。3月14日に公表された2月分米CPI統計では、サービス分野におけるインフレ圧力が高水準で維持されたことを示すものとなりましたし、コアCPI(食品・エネルギーを除くCPI)の前月比伸び率が0.5%と、市場予想の0.4%を上回ってしまいました。しかし、この伸び率を小数点以下2桁でみると、1月の伸び率が0.41%であったのに対して、2月は0.45%であり、大きく加速したわけではありませんでした(図表3)。足元のインフレ率はFRBが満足できる水準ではないものの、金融システムの安定性を確保する観点から、3月21~22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)会合での利上げ幅を25bp(=0.25%)、あるいはゼロにすることを正当化するような内容であったと思われます

(図表3)米国:コアCPI(食品・エネルギーを除くCPI)の前月比伸び率


 とはいえ、来週のFOMC会合までの間に、米国内外での金融システムの健全性に対する懸念が高まると話が違ってきます。銀行セクターにおける株価の大幅な下落が、金融システムに対する信頼を脅かすことになるような事態となれば、FRBが金融引き締めに対してより消極的になる可能性があります。来週のFOMCでは、FOMC参加者によるインフレ・政策金利の見通し(SEP:Summary of Economic Projections)が公表されますが、これらはいつも以上に重要であり、金融市場への影響が大きいと見込まれます。FOMCでのSEPやパウエル議長の記者会見での発言が金融市場の想定よりもタカ派的な内容となる場合には、株安・長期金利安の可能性が高まるとみられます。

 

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