グローバル・ビュー

日銀の次回利上げ想定を10月に前倒し

Invesco Global View
要旨
タカ派化した日銀

7月会合での日銀からの情報発信は想定外にタカ派的でした。とりわけ、植田総裁が利上げペース加速の可能性に言及した点は重要です。この背景としては、日銀が、基調的な物価上昇率が2%に近づいているとの認識を強めていることがありますが、米国政府からの圧力も無視できません。これを受けて、日銀の次回の利上げ時期についての予測を、従来の今年12月から10月に前倒ししたいと思います。今後、大幅な円安の動きが顕在化する場合には、次回の利上げが9月に前倒しされる可能性もあると考えられます。

協調介入の効果が意外に大きくなる可能性

為替市場では、15年ぶりの日米協調介入がサプライズとなりました。日米の当局が連携していることをふまえると、為替市場で介入に対する警戒感が強まることで、円売りポジションが大規模に解消され、円高効果が意外に大きくなるリスクに留意すべきであると思われます。

 

タカ派化した日銀

 日本銀行が7月30-31日の金融政策決定会合で政策金利を1%で据え置いたことは市場の予想通りでした。サプライズだったのは、展望レポートでの金融政策についての記述や植田総裁の記者会見での発言がこれまでに比べてかなりタカ派化した点です。展望レポートでは、基調的な物価上昇率が2%の物価目標を超えて上振れていくリスクがあり、それらのリスクが経済に悪影響を及ぼすことがないようにする観点が重要になるとの文言が加わりました。また、展望レポートでは、従前より、「諸情勢に応じて引き続き政策金利を引き上げる」という方針が示されてきており、今回もこの文言が維持されましたが、今回は、「政策金利を引き上げないリスク」も強調されました

 その後の植田総裁の記者会見では、そのリスクを強調した背景について説明がありました。それは、基調的な物価上昇率が2%をかなり下回っているときは基調物価が上振れたとしてもその悪影響は小さいものの、現在それが2%に近くなっているところで想定外に上振れてしまうと大きな悪影響が出る、というロジックでした。植田総裁は、また、さらに踏み込んで、「このままでは金融環境が緩和的に過ぎるというふうに思えば、それは利上げのペースを速めるということも十分あり得る」と、利上げペース加速の可能性にふれました。これは、日銀がさらに政策金利を引き上げていくことを示唆する、想定外のタカ派的な表現と言えます。

 日銀は、2024年に18年ぶりの利上げに踏み切って以降、1年間に2回のペースでの利上げを継続してきました。日銀がこれまでステップを踏んで政策金利の引き上げを行ってきた背景には、毎回の利上げの結果として予期せぬ悪影響が顕在化しないか点検する必要があったことがあります。ただ、2024年以降の5回にわたる利上げにもかかわらず、日銀短観調査でみる企業の資金繰り判断DIは、有意に悪化しなかったばかりか、直近ではむしろ改善しています(図表1)。こうした状況をみて、日銀はより速いペースでの利上げが実体経済に対して大きな引き締め効果をもたらす可能性は低いと判断した可能性があります。一方で、利上げペースの加速の可能性を検討している理由としては、ハト派的な金融政策を望む高市政権からの圧力が足元で低下していることもあったとみられます。

(図表1)日本:日銀短観調査における資金繰り判断DI(「楽である」―「苦しい」)

 後段でふれるように、米国トランプ政権は7月31日に日本政府と協調して円買い介入を実施したとみられますが、円安の動きを懸念する米国政府は、日銀による引き締め政策の強化を望んでいると考えられます。米国政府による圧力によって日本政府から日銀への利上げけん制圧力が弱まれば、日銀にとってはこれまでよりも利上げしやすい環境となります。

 利上げのペースを速めるということは、次回の利上げの時期が年末ではなく、それよりも早いタイミングで実施される可能性を示唆しています。私は、こうした足元の環境変化を受けて、日銀の次回の利上げ時期についての予測を、従来の12月から10月に前倒ししたいと思います。今後、大幅な円安の動きが顕在化する場合には、次回の利上げが9月に前倒しされる可能性もあると考えられます。その後の政策金利については、今回の金融サイクルにおける政策金利の到達点として、従前は1.5%を見込んでいましたが、今回の情報発信で示された日銀のタカ派化をうけて、これを1.75%に引き上げたいと思います

協調介入の効果が意外に大きくなる可能性

 一方、外国為替市場では、日本の財務省が7月30日に円買いの為替介入を実施したのに続いて、日米当局は、7月31日の外国為替市場で円買いの協調介入を実施しました。協調介入は2011年の東日本大震災の直後以来、15年ぶりです。ドル円相場は7月下旬に1ドル=164円にせまり、日本側は円安に伴うインフレ加速、米国側はドル高による輸出競争力の低下や金融市場の動揺による日本の長期金利上昇が米国の長期金利上昇につながることを懸念していたと考えられます。日米の当局は円安という課題に対して連携して取り組んでいるようです。先にふれたように、日銀は、7月30~31日の政策決定会合ではこれまでよりもタカ派的なトーンで情報発信しましたが、このことは、為替介入の効果を強める役割を果たしたと考えられます。

 今回の日米協調介入は強い円高効果をもたらしました。金融市場では、今回の介入の効果が非常に短期間で終わるか、あるいはある程度の間続くかについて意見が割れています。私は、日米政府による介入への警戒感が続くことで短期的には円安の動きが抑制されやすくなると見込んでいます。今回の一連の介入が実施される直前の段階では、金融市場で大きな円売りポジションが積み上がっていました。過去の為替介入エピソードを振り返ってみると、日本政府が円買い介入を実施した際の円ポジションへの影響は一様ではありませんでした(図表2)。しかし、今回の介入が米国当局と連携した協調介入であったことを踏まえると、為替市場で介入に対する警戒感が強まることで、円売りポジションが大規模に解消され、円高効果が意外に大きくなるリスクに留意すべきであると思われます

 過去数年間でみると、日本の財務省による為替介入後の為替レートの円高方向への振れが最も大きかったのは、2024年7月における介入でした(図表2)。7月初めには1ドル=160円よりも円安水準にあったドル円レートは、9月半ばには1ドル=140円近くまで振れました。ただ、この際は、日本の財務省が円買い介入をしたのと同じタイミングでFRBによる利下げ観測が強まり、9月に実際にFRBによる利下げが実施されたことが円売りポジションの解消につながったと考えられます。日銀が利上げに前向きな姿勢を続ける中、日米金利差の縮小が意識され、CME(シカゴ取引所)における円の先物投機ポジションは「大幅な円売り」ポジションから「円買い」ポジションに転換しました。私は、FRBの年内の利上げの可能性は依然として低いとみていますが、その見方が正しいとすれば、日銀の利上げによって日米金利差が縮小し、円高圧力が生じる展開が見込まれます。2026年末のドル円レートのレンジについて、1ドル=150~155円とする従前からの見方を維持したいと思います

(図表2)日本:CMEにおけるネット先物投機ポジションとドル円レート

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