グローバル・ビュー

9月FOMC:利上げに踏み切る

Invesco Global View
要旨
利上げに踏み切ったFRB

9月15~16日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、FF金利の誘導目標が3.50~3.75%から、3.75~4.00%へと25bp(ベーシスポイント、=0.25%)引き上げられました。CPI統計や雇用統計の直近での上振れに加え、足元で原油価格が再び急上昇しており、それによって今後のインフレにはさらに上振れ圧力がかかる可能性が高まったことが予防的な利上げにつながったと考えられます。

追加利上げ実施の可能性も高まった

今後、FRBの政策についての金融市場の関心は、利上げが継続されるかどうか、そして、継続されるとすればどの水準まで引き上げられるかに移ります。これを見通すうえでの鍵になるのは、原油価格の動きとその物価全般への波及スピード、期待インフレ率の動き、民間消費の状況です。今回のFOMC後の記者会見でウォーシュ氏が示したのは、「個々のデータはノイズであり、トレンドこそが重要である」という見方でした。足元までのインフレ統計が上振れていることや直近で原油価格が急上昇していることを踏まえると、中東情勢などの状況が大きく変わらない限り、12月のFOMCで追加的な利上げが実施される可能性が高まったと考えられます。

金融市場では短期的にボラティリティーが上昇か

今回のFOMC会合を受けて、金融市場では、株安とドル高となりました。米長期金利は若干上昇しました。中東情勢が改善しない限り、今後数週間は米国などの先進国市場だけではなく、新興国市場を含めたグローバル金融市場のボラティリティーが高い状態が続くと見込まれます。もっとも株式市場では、10月中旬から米国企業による7-9月期決算の発表が始まります。足元での企業業績は比較的好調であるとみられることから、ポジティブな結果が続くのに合わせて株式市場が落ち着きを取り戻していく展開を見込みます。


※次回のグローバル・ビュー発行は、都合により、10月8日を予定しています。

 

利上げに踏み切ったFRB

 9月15~16日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、FF金利の誘導目標が3.50~3.75%から、3.75~4.00%へと25bp(ベーシスポイント、=0.25%)引き上げられました。FOMCで利上げが実施されたのは、2023年7月以来となります。8月下旬に開催されたジャクソンホール会議では、ウォーシュFRB(米連邦準備理事会)議長が、基調的なインフレ率が2%目標に向かっているという確信が持てなければ、利上げに向けて動くことを強く示唆しました。その後公表された8月分雇用統計では、雇用の堅調な伸びが確認されたうえ、先週公表されたCPI統計では、コアCPI(食品・エネルギーを除くCPI)の前月比上昇率が市場予想(0.2%)を上回る0.3%を記録し、インフレの落ち着きがなかなか実現していないことが明らかとなりました。私は、これらの統計だけでは、今回の会合で利上げを実施する決定打にはならなかったと考えます。決定打になったのは、これらの統計だけではなく、足元で原油価格が再び急上昇しており、それによって今後のインフレにはさらに上振れ圧力がかかる可能性が高まったことでした。インフレ上振れリスクが強まる中で、FOMCとしては、インフレリスクを抑制するための予防的な利上げが必要であるとの判断に傾いたと思われます。金利先物市場では今回のFOMCでの利上げ確率が会合直前の段階で91%に達していました。この意味では金融市場は今回の利上げをおおむね想定済みであったと言えます。

追加利上げ実施の可能性も高まった

 今後、FRBの政策についての金融市場の関心は、利上げが継続されるかどうか、そして、継続されるとすればどの水準まで引き上げられるかに移ります。年末までに開催されるFOMCは、10月27~28日と12月8~9日の2回です。今回のFOMCの前日の段階において、年末までに開催される2回のFOMCにおいて政策金利が引き上げられる回数についての金利先物市場の織り込みは1.1回でしたが、今回のFOMC後には1.3回に上昇しました。

 FRBの今後の政策を見通すうえでの鍵になるのは、原油価格の動きとその物価全般への波及スピード、期待インフレ率の動き、民間消費の状況です。ブレント原油価格は、6月末には1バレル=70ドル台前半まで低下しましたが、足元では1バレル=108ドル付近まで上昇しました。今後、トランプ大統領がイランとの戦闘終結に向けて目に見える行動をとることになれば、原油価格は再び落ち着いていき、追加的な利上げの必要性は低下するでしょう。しかし、原油価格が高止まりするのであれば、インフレが再加速し、FRBが追加的な利上げを実施する可能性が高まります。

 一方、期待インフレ率については、ニューヨーク連銀の調査による3年先の期待インフレ率が6月、7月はともに3.3%でしたが、8月は3.2%へと低下しました。ウォーシュ議長がジャクソンホール会議で述べた通り、インフレ期待はしっかりとアンカーされている(これは、「2%のインフレ目標と整合的な水準にある」と言い換えることができます)と言えます。しかし、インフレ率が高い状態が続けば、インフレ期待が有意に上昇してしまうリスクがあります。そのリスクが顕在化する場合には、FOMCが複数の追加的な利上げ判断を迫られる可能性が出てくるでしょう。期待インフレ率の押し上げに寄与する潜在的な要素として、11月3日に実施される予定の米国中間選挙も挙げられます。トランプ大統領は、中間選挙後に共和党が上下両院で多数派を維持すれば、成人の米国民に1人当たり5,000ドルを給付する方針を明らかにしました。仮にこの政策が実施される場合、給付を受けた消費者からの強い需要が一時的に生じることで、インフレ期待が一気に高まる可能性が高いとみられます。このため、中間選挙で共和党が上下両院の多数派を維持する場合には、実際のインフレが上昇する前にインフレ期待が強まり、FRBによる予防的な利上げにつながる可能性があります。

 他方、民間消費については、米国労働者の賃金所得が実質ベースで大きく減速する状況が過去半年間続いており、足元では財消費が減速する動きが出てきました(当レポートの8月20日号「消費に減速感が出てきた米国景気とFRB政策」をご覧ください)。今後の消費データが弱いものになる場合には、FRBは利上げには慎重にならざるを得ないと思われます。

 今回公表されたFOMC参加者の見通し(中央値ベース、ウォーシュ氏自身は見通しには加わっていない)では、年内にあと1回の利上げが想定されています(図表1)。ウォーシュ議長は、FRB議長への就任当初、FOMCが意思決定をするうえでは、古いデータにとらわれるのではなく、新しいデータをしっかりみていくべきとの考え方を示していました。この考え方に立てば、インフレの落ち着き、あるいは民間消費の弱さを示すデータが今後公表される場合はFOMCが利上げに対してかなり慎重になる可能性があると言えます。しかし、今回のFOMC後の記者会見でウォーシュ氏が示したのは、「個々のデータはノイズであり、トレンドこそが重要である」という見方でした。足元までのインフレ統計が上振れていることや直近で原油価格が急上昇していることを踏まえると、中東情勢などの状況が大きく変わらない限り、12月のFOMCで追加的な利上げが実施される可能性が高まったと考えられます

(図表1)FOMC参加者による政策金利・経済見通し(中央値)
金融市場では短期的にボラティリティーが上昇か

 FOMCの結果を受け、9月16日の米国株式市場ではS&P500種指数が、主として非AI関連株の下落によって前日比で0.45%下落しました。今回会合の直前の段階において、金融先物市場で織り込まれた利上げ確率は9割を超えていたものの、エコノミストの間では9月のFOMC会合ではなく12月会合において利上げが開始されるとの見方も多くありました。これに加え、FOMC参加者の見通しでは、年内にあと1回利上げする見通しが示されたことも株式市場にとってややサプライズ的な悪材料になったと想定されます。

 FRBによる追加利上げの可能性が高まったことで、米国の10年国債金利は前日の5.003%から5.024%へとやや上昇しました。長期金利の上昇が小幅にとどまったのは、実質金利が上昇したものの、FRBがインフレ抑制に向けての姿勢を強めたことでブレイクイーブン・インフレ率が低下したためです。

 為替市場では、ドルがユーロや円など主要通貨に対して上昇しました。ドル円レートは、当レポート執筆時点(9月17日午前7時時点)で1ドル=156.2円と、前日の1ドル=155円台前半から円安方向に振れました。ドル円レートについては、9月17~18日に実施される日銀の政策決定会合での利上げが確実視される中、植田総裁が記者会見において今後の利上げペースについてどのような情報発信をするかが重要となります。 

 グローバル金融市場では、9月初め以降、米国とイランの戦闘拡大によってホルムズ海峡を通行するタンカーへの被害が出るとともに、サウジアラビア国内で紅海に原油を輸送するパイプラインが攻撃されたことでブレント原油価格が17%程度上昇し、株価や債券価格に悪影響が及んでいました。先行きに対する不透明感が高まっていた中、今回のFRBによる利上げがその不透明感を薄める効果は限定的とみられます。このため、中東情勢が改善しない限り、今後数週間は米国などの先進国市場だけではなく、新興国市場を含めたグローバル金融市場のボラティリティーが高い状態が続くと見込まれます。もっとも株式市場では、10月中旬から米国企業による7-9月期決算の発表が始まります。足元での企業業績は比較的好調であるとみられることから、ポジティブな結果が続くのに合わせて株式市場が落ち着きを取り戻していく展開を見込みます

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