日銀短観(6月)は追加利上げを促す内容に
要旨
製造業の業況が市場予想以上に改善
今回の日銀短観(6月調査)の結果は、イラン戦争による不透明感が強い中でも日本経済が堅調さを維持していることを示すものとなりました。製造業(大企業ベース)の業況判断DI(最近)(「良い」という回答率から「悪い」との回答率を差し引いた計数)は、前回調査(3月)の17%ポイントから22%ポイントへと比較的大幅に上昇しました。これは、市場予想を大きく上回るものであり、2018年3月調査以降で最も高い水準でした。
製造業だけではなく非製造業でも需給がタイト化
私は、今回の日銀短観では、日本企業をとりまくインフレ環境がどのように変化しているかという点に注目していましたが、イラン戦争にもかかわらず、日本経済がよりインフレ的な環境に変化してきたことが明らかになりました。国内での製商品・サービスについての需給判断DI(「需要超過」との回答率から「供給超過」との回答率を引いた計数)は、6月に製造業・非製造業ともに有意に上昇しました(図表3)。日本のGDPの8割以上を占める非製造業において、需給がさらにタイト化してきた点は、日本経済がよりインフレ的な環境に変化してきたことを示唆しています。
金融引き締め下でも企業の資金繰りが改善
今回の6月調査では、日銀が利上げを継続しているにもかかわらず、中小企業および中堅企業の資金繰り判断が改善しました。日本経済のマクロ的な需給関係がさらにタイト化してきたこともふまえると、今回の日銀短観は日銀による今後の利上げの必要性を高めたと考えられます。私は、日銀が2026年12月の会合で政策金利を現在の1.00%から1.25%に引き上げると予想しますが、今後、円が多くの主要通貨に対して大幅に減価するような場合には、より早期に利上げが実施されるリスクがあると考えます。
製造業の業況が市場予想以上に改善
7月1~2日に日銀短観(6月調査)の結果が公表されました(1日に概要が、2日には詳細なデータが公表されました)。日銀短観は、全国の9,000社以上を対象に調査する日本で有数の企業サーベイであり、足元の日本経済の動きについて重要な手掛かりを提供してくれます。今回の日銀短観調査で私が最も注目していたのが、日本経済がイラン戦争による悪影響をどの程度被っているかという点でした。前回の3月調査では、その影響はほとんど顕在化していないという印象でしたが、今回の6月調査の結果は、イラン戦争による不透明感が強い中でも日本経済が堅調さを維持していることを示すものとなりました。
製造業(大企業ベース、以下同様とします)の業況判断DI(最近)(「良い」という回答率から「悪い」との回答率を差し引いた計数)は、前回調査(3月)の17%ポイントから22%ポイントへと比較的大幅に上昇しました(図表1参照)。このDIは事前の市場予想(ブルームバーグ調べ)では低下するとの見立てでしたが、逆に上昇しました。22%ポイントは、2018年3月調査以降で最も高い水準でした。製造業の主要セクター中、鉄鋼セクターだけは中国景気の停滞やトランプ政権による追加関税措置の悪影響から業況判断DIがマイナス圏でしたが、それ以外の多くのセクターではDIが改善しました。AI関連企業がデータセンター向けの投資を世界的に増やしていることで、エレクトロニクス関連セクターや非鉄金属セクター等で需要が大幅に増加したことや、イラン戦争の影響で石油化学製品などが品薄になるという懸念から在庫を積み上げる動きが強まったことが製造業の堅調さの背景にあるとみられます。
一方、非製造業の業況判断DIも3月調査から若干改善し、37%ポイントに達しました。こちらは1991年以来で最も高い水準です。イラン戦争で原油価格が上昇したものの、高市政権がガソリンへの多額の補助金を実施してきたことで、非製造業への悪影響は限定される一方、実質でみた平均賃金が上昇に転じてきたことで民間消費も底堅い動きをみせています。これらの要因が非製造業の業況改善に寄与したと考えられます。今回の日銀短観では、企業業績の好調さが続く中、日本企業(全規模・全産業ベース)が2026年度の設備投資の増加率を2025年度の7.8%(実績値)を上回る8.8%へと加速させる計画であることも明らかになりました(図表2)。日本企業の設備投資増加率は2022年度以降、比較的高い水準で推移しており、今後、生産性の向上を通じて企業業績に寄与することと予想されます。
製造業だけではなく非製造業でも需給がタイト化
私が今回の短観調査で注目していたもう一つのポイントが、日本企業をとりまくインフレ環境がどのように変化しているかという点でした。イラン戦争が企業マインドに及ぼす影響次第では、企業がデフレ的なマインドに戻ってしまい、今後の日本経済に暗い影をもたらすリスクがあるためです。企業がここ数年で獲得してきたインフレマインドを失わないかどうかを私は心配していたのです。この心配は杞憂(きゆう)に終わりました。まず、中長期のインフレについての企業の見方は、これまでとあまり変らなかったと判断されます。日銀短観で計測された企業の物価見通しをみると、全産業・全規模ベースでみた5年後の販売価格の見通し(現在の水準と比較した変化率)は、前回調査(3月)の5.6%から6.1%へと0.5%ポイント上昇しましたが、これは、1年後の販売価格の見通しが前回の3.1%から3.7%へと0.6%ポイント上昇したのとほぼ同様の水準でした。つまり、1年後以降から5年目までの販売価格上昇率についての企業の期待は、これまでとほぼ同じでした。中長期的なインフレについての企業の期待には大きな変化がなかったわけです。
一方、日本経済の総需要と総供給の関係は、よりタイトになったと考えられます。国内での製商品・サービスについての需給判断DI(「需要超過」との回答率から「供給超過」との回答率を引いた計数)は、6月に製造業・非製造業ともに有意に上昇しました(図表3)。製造業においては、先にふれた諸要因(データセンター需要と在庫積み上げ需要)が上昇に寄与したと考えられますが、日本のGDPの8割以上を占める非製造業において、需給がさらにタイト化してきた点は、日本経済がよりインフレ的な環境に変化してきたことを示唆しています。
金融引き締め下でも企業の資金繰りが改善
今回の短観調査で日本経済がよりインフレ的な環境に変化してきたことが明らかになりました。この点は、日銀が政策金利をさらに引き上げる必要性を示唆しています。日銀短観で企業の資金繰り判断DIの推移をみると、今回の6月調査では、日銀が利上げを継続しているにもかかわらず、中小企業および中堅企業の資金繰り判断が改善しました(図表4)。これは、銀行の中堅・中小企業向け貸出が過去数カ月間に加速してきたことや、中堅・中小企業の利益水準が直近の数年で大きく改善してきたことを反映しているとみられます。この点は、日銀が政策金利を引き上げた効果があまり出ていないことを意味します。日銀は、将来の過度なインフレの芽を摘む観点から、今後も利上げ姿勢を継続すると見込まれます。私は、日銀が2026年12月の会合で政策金利を現在の1.00%から1.25%に引き上げると予想しますが、今後、円が多くの主要通貨に対して大幅に減価するような場合には、より早期に利上げが実施されるリスクがあると考えます。
MC2026-080