グローバル・ビュー

AI株を軸に戦争開始後のグローバル株市場を読む

Invesco Global View
要旨
AI関連株がイラン戦争開始後に通過した4つの局面

イラン戦争後のAI関連株の株価の振れが目立っています。マグニフィセント7指数(MAG7指数)は、イラン戦争開始以降の5カ月弱の間に、「下落期(第1期)⇒上昇期(第2期)⇒下落期(第3期)⇒上昇期(第4期)」という局面を経てきました。それぞれの局面で株式市場のテーマは大きく変化してきました。6月下旬以降、直近までの局面では、高いマージンを中期的に維持できないという懸念が出てきたメモリー半導体企業群の株価に下落圧力がかかる一方、割安感の出てきたMAG7の株価は反転して上昇に転じてきました。

グローバル株式市場の今後のポイント

当面の注目点としては、AI関連株については今後本格化する決算発表が特に重要です。AI関連以外の株については、現在のグローバル市場において、イラン戦争における戦闘拡大という状況下で、いったんは後退したかに見えた原油高によるインフレ・景気減速リスクが再び強く意識されています。私は、中間選挙を控えたトランプ政権が、イランとの間で再び停戦に向けての努力を強めると考えており、その立場に立つならば、実効性のある停戦によって現在の株式市場が直面する不透明感は早晩晴れていくことになると考えられます。そうした動きは、AI関連以外の銘柄群に恩恵をもたらし、出遅れ銘柄のリバウンドを促進すると予想されます。

 

AI関連株がイラン戦争開始後に通過した4つの局面

 イラン戦争後のAI関連株の株価の振れが目立っています。米国の超大型AI関連株を代表するマグニフィセント7指数(アルファベット、アマゾン、アップル、マイクロソフト、メタ・プラットフォームズ、エヌビディア、テスラの7銘柄で構成される指数、以下では、MAG7指数と略称します)は、2月末のイラン戦争開始後、3月末まで下落しました。そこからは株価は反発に転じ、上昇局面が6月初めまで続きました。MAG7指数は6月初めからは再び下落局面に入りましたが、6月下旬には再び底打ちし、上昇基調のまま現在に至っています(図表1)。つまり、MAG7指数は、イラン戦争開始以降の5カ月弱の間に、「下落期(第1期)⇒上昇期(第2期)⇒下落期(第3期)⇒上昇期(第4期)」という局面を経てきたことになります。この目まぐるしい動きをけん引した背景と今後の動きについて、以下で考えてみたいと思います。

(図表1)米国:ブルームバーグ・マグニフィセント7指数(MAG7指数)とMAG7以外の大型株指数

 第1期(2月末~3月末):第1期は、イラン戦争の開始に伴って、グローバル市場で投資家がリスクを取ることに慎重になったことで、AI関連であるかどうかを問わず、株価が全面的に下落した局面でした。MAG7指数は3月末までの間に10%程度下落しましたが、これはMAG7以外の米国大型株指数の下落率に近い水準でした。

 第2期(3月末~6月初め):しかし、米国とイラン間での停戦合意が近づいた3月末になると、株価は反発に転じました。停戦合意が恒久的な停戦につながるという期待感が高まったことが、6月初めまでの間の約2か月間の株価ラリーにつながりました。MAG7指数は、MAG7以外の大型株指数よりも大きく反発しましたが、これは、①イラン戦争の行方がまだ不透明な中で、グローバル投資家が、イラン戦争前の株価水準を大きく超えて株価が上昇することに対して一定の警戒感を抱いていたのに対して、AI関連銘柄については中長期的な収益拡大が投資家の期待の軸であったこと、②MAG7指数の1年先EPS予想に基づくPERは3月末に25倍程度と、長期的レンジの下限に近い割安の水準にあり、MAG7指数の割高感が消えていたこと(図表2)、➂4月下旬から順次発表されたMAG7銘柄の決算結果が、金融市場の期待を大きく上回ったこと、を背景としていたと思われます。

(図表2)米国:ブルームバーグ・マグニフィセント7指数(MAG7指数)のPER(アナリストによる1年先のEPS予想に基づく)

 第3期(6月初め~6月下旬):MAG7指数は6月初めにピークをつけましたが、その後は再び下落に転じました。3月末につけたボトムから指数が25%以上も上昇したことで株価に割安感がなくなったことが一つの背景ですが、実は、ここでグローバル株式投資家が注目する投資対象がAI関連のハイパースケーラーから、データセンター向け投資が大幅に増加する恩恵を受けるAI関連サプライヤーへと変化したことも重要な背景です。数多くの半導体関連銘柄を有する日本株市場では、メモリー半導体や、半導体製造装置、半導体部材、電子部品などの銘柄が急騰し、第3期における日経平均株価の上昇につながりました。サムスン電子やSKハイニックスが含まれる韓国総合指数やTSMCを含む台湾加権指数はさらに力強く上昇しました(図表3)。第3期において、米国のAI関連企業の株価は下落に転じましたが、それは、AI技術の先行きへの期待が後退したからではなく、ハイパースケーラーによるデータセンター投資の大幅な増加がもたらす大きなメリットを享受する日韓台等の銘柄群に投資資金がシフトしたことが大きいと考えられます。他方、MAG7以外の米国大型株指数は第3期にも上昇トレンドを維持しました。これは、原油価格が落ち着く中、グローバル景気が原油高に伴う一時的な減速局面から脱して回復局面に入るとの期待が強まったことや、それに伴ってイラン戦争後に株価の戻りが弱かった銘柄群の株価が上昇したことが大きかったと思われます。

(図表3)米国、日本、韓国、台湾の主要株価指数

 第4期(6月下旬~直近):6月下旬に入ると、日韓台の半導体関連銘柄に転機が訪れました。メモリー半導体の主要製造企業であるサムスン電子やSKハイニックス、マイクロンなどが工場の新設計画を次々と公表したほか、日本のキオクシアも積極的にシェアを高める意向を表明しました。これらの工場新設による供給能力の増加は2028年までは実現しないとみられるものの、2028年以降の需給が緩むことで、これらのメモリー半導体企業群が現在享受している高いマージンを維持できないという懸念が生じました。こうしたニュースを受けて、株価急騰の恩恵を受けていた投資家が利益確定のために株式を売却したり、それまでに出遅れていたセクターに注目する動きが広がった模様ですMAG7の株価が反転して上昇に転じたのは、それまで半導体関連銘柄に向いていた関心が再びAI関連企業に戻ってきたことや、6月下旬時点でMAG7指数の1年先EPS予想に基づくPERが再び25倍程度にまで低下したことで割安感が生まれていたことがあったと考えられます。他方、MAG7以外の米国大型株指数は、第4期に入って、7月上旬まで頭打ちの状況でしたが、これは、FRB(米連邦準備理事会)の金融政策がタカ派化するとの見方が強まったことがありました。7月中旬に入ると、米国とイラン双方による攻撃が拡大してイラン戦争の先行きについての不透明感が台頭したことで、原油価格が再び大幅に上昇しました。インフレが長引くリスクが意識され、MAG7以外の米国大型株指数は下落に転じています。

グローバル株式市場の今後のポイント

 当面の注目点としては、AI関連株については今後本格化する決算発表が特に重要です。決算でAI関連企業が提供するサービスの需要や収益について明るい見通しが示される銘柄には株価の上昇が見込まれる一方、そうした銘柄が多数になれば、AI関連企業向けのサプライヤーである半導体関連企業群への株価上昇圧力をもたらすとみられます

 一方、AI関連以外の株については、現在のグローバル市場において、イラン戦争における戦闘拡大という状況下で、いったんは後退したかに見えた原油高によるインフレ・景気減速リスクが再び強く意識されています。7月中旬に公表された6月分米国CPI上昇率は市場予想を下回るものであり、その時点では、インフレに対する警戒感はやや後退しました。しかし、その後の原油価格の上昇により、主要先進国における金融政策がタカ派化するリスクが高まっています。私は、中間選挙を控えたトランプ政権が、イランとの間で再び停戦に向けての努力を強めると考えており、その立場に立つならば、実効性のある停戦によって現在の株式市場が直面する不透明感は早晩晴れていくことになると考えられますそうした動きは、AI関連以外の銘柄群に恩恵をもたらし、出遅れ銘柄のリバウンドを促進すると予想されます。地域的には、多くの先進国・新興国株式市場でリバウンドがみられるでしょう。

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