停戦合意後のグローバル市場の動きと今後
要旨
グローバル株式市場:一部でリバウンドの動き
イラン戦争終結が視野に入り、グローバル市場では、「出遅れ資産」のリバウンドの動きが徐々に顕在化してきました。株式市場では、戦争終結のニュースを受けて、ほとんどの地域で株価が上昇しました。ただ、株式市場におけるリバウンドの動きはこれまでのところ限定的であり、今後の中東情勢のさらなる安定化に合わせて、株価がさらにリバウンドしていくと予想します。
債券市場:FRBの引き締め観測が台頭。米長期金利は有意に低下せず
米国債券市場では、5月以降、原油価格が大きく低下したにもかかわらず米10年国債金利は4.5%近辺で横ばい圏の動きが続いています。この背景には、米連邦政府の関税収入の見通しが大きく下方修正されたことと、FRB(米連邦準備理事会)のタカ派化懸念が強まったことがあると思われます。今後については、中東情勢のさらなる安定化に合わせて、インフレ懸念の後退が意識され、米10年国債金利はいったんは小幅に低下する可能性が高いと考えられます。
為替市場:FRBの引き締め観測でドル高に。円の下落幅はユーロ並み
為替市場においては、イラン戦争開戦直後の3月中は、原油高がドル高につながりましたが、4月に入るとECB(欧州中央銀行)や英イングランド銀行の利上げへの期待感が市場で強まったことを受けて、いったんは減価したユーロやポンドが対ドルで戻す展開となりました、その後、5月以降はFRBのタカ派化が市場で織り込まれるとともに、ユーロやポンドは再び対ドルで減価しています(図表5)。円ドルレートは足元で円安方向の動きが続いていますが、現時点での円買い為替介入は得策ではないと思われます。
グローバル株式市場:一部でリバウンドの動き
グローバル市場では、トランプ大統領が6月11日にイランとの停戦協議内容がイランの最高指導部から承認されたと表明して以降、イラン戦争の恒久的終結を資産価格に織り込む動きが強まりました。その後、6月17日には戦闘終結に向けた米国とイランとの覚書が公表されるなど、情勢の安定化に向けての外交上の動きが表面化しました。私は、当レポートの5月28日号(「グローバル市場はイラン戦争終結にどう反応するか?」)において、戦争終結に際して「出遅れ資産」のリバウンドが期待できるとの見方をご紹介してきましたが、その動きが徐々に顕在化してきました。主要国・地域の株価指数について、6月11日に停戦合意のニュースが報道される直前から直近(6月23日)までの騰落率をみると、イラン戦争前の株価を回復していない地域を含めたほとんどの地域において株価指数が上昇しました(図表1)。
米国株式市場では、停戦合意に先立つ6月初めからAI関連株が下落に転じました。ブルームバーグ・マグニフィセント7(MAG7)指数がピークをつけた6月1日から直近(6月23日)までの下落率は10.6%に達しました(図表2)。AI関連株が下落した背景には、①AI関連株が、3月末につけた直近の底値から大きく上昇したことで、もはや割安ではなくなったこと、②スペースXの上場によってAI関連株がいったん売られるという懸念が市場で広がったこと、➂4月分と5月分の米国雇用統計において市場予想を上回る雇用者の増加が確認されたことで、FRB(米連邦準備理事会)のタカ派化懸念が強まったこと、があったと考えられます。
一方で、AI関連株が下落したにもかかわらず、ブルームバーグ大型株指数(除くMAG7)は上昇トレンドを維持しました(図表2)。これは、停戦合意による業績へのプラス効果が織り込まれたことによると考えられます。米国の中小型株も、6月11日以降、ほぼ横ばい圏を維持しています。日本株市場では、データセンターへの需要増によるAI関連株の強い動きが足元まで続いています。停戦合意ニュース(6月11日)後から直近までの日経平均株価のセクター別騰落率をみると、半導体関連株の物色が広がったことで情報技術や素材、資本財・サービスの株価が比較的大きく上昇しました(図表3)。
しかし、株式市場におけるリバウンドの動きはこれまでのところ限定的であり、今後の中東情勢のさらなる安定化に合わせて、株価がさらにリバウンドしていくと予想します。AI関連株については、イラン戦争終結に伴って非AI関連株に注目が集まりやすいことから、一時的に停滞する可能性が高いとみられます。しかし、これまでと同様に、主要なAI関連企業の業績の向上につながるような個別企業ベースのニュースフローとともに業績への期待が強まり、それが株価の緩やかな上昇につながっていくと見込まれます。
債券市場:FRBの引き締め観測が台頭。米長期金利は有意に低下せず
米国債券市場では、イラン戦争開始後、5月初めまで継続したブレント原油価格と米10年国債金利との相関関係が崩れました。具体的には、5月以降、原油価格が大きく低下したにもかかわらず米10年国債金利は4.5%近辺で横ばい圏の動きが続いています(図表4)。私は、原油価格と米10年国債金利との根本的な関係は維持されているものの、イラン情勢以外の要因によって米国の10年国債金利に押し上げ圧力がかかっていると考えています。イラン情勢以外の要因として、まず挙げられるのが、米連邦政府の関税収入の見通しが大きく下方修正されたことです。米国際貿易裁判所は5月7日、トランプ政権が世界各国・地域に課した一律10%の関税措置が違法との判断を下しました。これに伴って、米国の財政赤字が想定よりも拡大するとの懸念が生じ、10年国債金利の上昇につながったとみられます。また、先にふれた、FRB(米連邦準備理事会)のタカ派化懸念が強まったことも10年国債金利の上昇に寄与したと思われます。これらの要因で米国の長期金利が高止まりしたことで、欧州や日本の長期金利にも押し上げ圧力が波及しました。
今後については、中東情勢のさらなる安定化に合わせて、インフレ懸念の後退が意識され、米10年国債金利はいったんは小幅に低下する可能性が高いと考えられます。債券フロー面では、株価がリバウンドすると見込まれる点が債券市場から株式市場への資金シフトをもたらしやすい面があるものの、株価の上昇に伴う機関投資家によるポートフォリオのリバランスによって債券を買う需要が強まるとみられます。これら2つの要素は10年国債金利に一定の影響を及ぼす可能性がありますが、どちらも債券相場を大きく動かす要素にはなりにくく、2つの要素による反対方向の力が相殺される可能性もあります。米国経済は、原油高によるインフレ加速の影響によって、いったんは緩やかに減速すると見込まれますが、イラン戦争の終結が年末までに米国景気の再加速につながるとみられます。景気の再加速が一定のインフレ圧力を生むとみられることから、米10年国債金利は年末ごろには再び現在の4.5%近辺に上昇すると見込みます。
為替市場:FRBの引き締め観測でドル高に。円の下落幅はユーロ並み
為替市場においては、イラン戦争開戦直後の3月中は、原油高がドル高につながりましたが、4月に入るとECB(欧州中央銀行)や英イングランド銀行の利上げへの期待感が市場で強まったことを受けて、いったんは減価したユーロやポンドが対ドルで戻す展開となりました、その後、5月以降は、FRBのタカ派化が市場で織り込まれるとともに、ユーロやポンドは再び対ドルで減価してきました(図表5)。円については、3月中はユーロやポンドと平仄(ひょうそく)を合わせて対ドルで減価しましたが、4月に入ると、日銀の金利政策については年末までの2回の利上げが市場でもともと織り込まれていたこともあり、ユーロやポンドのように対ドルで増価せず、イラン戦争前と比べると円は主要国の通貨の中で最も弱い通貨となりました。
4月末から5月初めにかけて日本の財務省が円買い介入を実施したことで、円のイラン戦争直前からの対ドルでの騰落率はユーロ並みに戻り、その後の対ドルでみた円レートは、直近までユーロの対ドルレートをなぞるような動きとなっています(図表5)。当レポート執筆時点(6月24日)で、円の対ドルレートは1ドル=161円台と、足元で大幅な円安が進行しています。ただ、ユーロも円とともに対ドルで同様に減価していることを踏まえると、現在起こっているのは4月末に財務省が介入した時のような円の独歩安ではなく、「ドルの全面高」に伴う減価であると言えます。仮に日本の財務省が現時点で円買い為替介入を実施したとしても、4月末時点の介入ほどの効果は得にくいと考えられ、この意味では現時点での円買い為替介入は得策ではないと思われます。今後については、FRBのハト派化と日銀による追加利上げが年末までに想定されることを踏まえ、2026年末のドル円レートの予想レンジについて1ドル=150~155円とする従来の見方を維持します。
MC2026-078