グローバル市場はイラン戦争終結にどう反応するか?
要旨
イラン戦争終結期待が高まる局面では出遅れ資産がリバウンドするはず
イラン戦争終結の織り込みが進むにつれて、金融市場では、イラン戦争による悪影響からまだ価格が戻っていない資産、いわゆる「出遅れ資産」の価格が上昇することが予想されます。出遅れ資産がリバウンドする原動力になるとみられるのが、①景気回復への期待と、②原油価格低下に伴うインフレの落ち着きによって主要中央銀行の金利政策がハト派化するという見通しです。
債券市場はどのようにリバウンドするか?
主要国の長期金利は、イラン戦争の終結への期待が高まり、原油価格が低下するのに合わせて低下していくと考えられます。
株式市場はどのようにリバウンドするか?
グローバル株式市場においては、イラン戦争後の株価下落率が大きい市場やセクターほどリバウンドの動きが強くなる展開を見込みます。株価についてのリバウンドの度合いは、債券市場と同様に、原油価格が低下するほど大きくなるとみてよいでしょう。リバウンド局面での株価の動きについて、もう一つ考慮に値するのが、イラン戦争勃発後の3カ月間に、企業業績の見通しが多くの国で改善している点であり、この点も多くの国・地域における株価のリバウンドに寄与すると予想されます
リバウンド局面が終わった後のグローバル株式市場の様相は?
リバウンド局面の終了後は、グローバル株式市場が新しい局面に移行すると見込まれます。その際、新規の投資資金が、AI関連株以外にも流入していく形で分散投資が進むと思われます。地域的には、米国だけではなく、欧州・日本を含む多くの地域にバランスよくニューマネーが入っていく展開が見込まれます。米国のAI関連株には既に力強い動きが顕在化していますが、AI関連株以外にもニューマネーがしっかり入っていくでしょう。その際には、銘柄選別の動きがより強まっていくと予想されます。
※来週は小職の出張により発行をお休みさせていただきます。次号は、6月11日に発行の予定です。
イラン戦争終結期待が高まる局面では出遅れ資産がリバウンドするはず
トランプ大統領は5月23日、米国とイラン間の終戦交渉の合意が近いと表明しました。その後、トランプ氏は交渉団に対して合意を急がないように指示したものの、グローバル金融市場では、イラン戦争の停戦が近づいているとの見方が台頭しました。イラン戦争がいつどのような形で終結するかにもよりますが、戦争終結の織り込みが進むにつれて、金融市場では、イラン戦争による悪影響からまだ価格が戻っていない資産、いわゆる「出遅れ資産」の価格が上昇することが予想されます。この出遅れ資産には、AI関連以外の日米株や、多くの欧州株、新興国株、世界の主要な債券が含まれます。
出遅れ資産がリバウンドする原動力になるとみられるのが、①景気回復への期待と、②原油価格低下に伴うインフレの落ち着きによって主要中央銀行の金利政策がハト派化するという見通しです。各国への原油供給はすぐに増えませんし、インフレによる悪影響もすぐには消えませんので、イラン戦争が今後短期間で終結したとしても、グローバル景気は4-6月期、7-9月期まで減速状態を余儀なくされると考えられます。しかし、原油高や供給不足による悪影響が剥落するとみられる10-12月期からはグローバルに景気が回復する公算が大きいと考えられます。今年10-12月期にはグローバル経済は潜在成長率程度の成長率に達し、2027年前半以降も巡航速度での成長を維持すると見込まれます。主要国の中で、2027年前半の景気の勢いが他を上回るとみられるのが米国です。エネルギーを自給することができる米国経済はもともと他の地域ほどにはエネルギー問題による悪影響を被らないとみられますし、巨額のデータセンター投資の継続やFRB(米連邦準備理事会)による利下げの効果もあって、他の地域よりも景気が勢いづくと見込まれます。
金融政策については、2月末にイラン戦争が勃発してから、市場における政策金利の見立ては大きくタカ派化方向に変化しました。2月末における先物・OIS市場では、2026年内の政策金利の変更幅として、FRBが2.5回の利下げ(1回の金利下変更幅を0.25%としています。以下同様です)、ECB(欧州中央銀行)が0.6回の利下げ、日本銀行が1.7回の利上げが織り込まれていました。しかし、イラン戦争勃発後に原油高を通じたインフレ加速の方向性が意識されたことで、織り込まれた金利変更幅は、5月25日時点で、FRBが0.6回の利上げ、ECBが1.6回の利上げ、日本銀行が2.1回の利上げ、へと、それぞれ変化しました。イラン戦争が終結すると、これらの織り込みがイラン戦争前の方向に向かってハト派化していく可能性が高いと思われます。
債券市場はどのようにリバウンドするか?
主要国の長期金利は、イラン戦争の終結への期待が高まり、原油価格が低下するのに合わせて低下していくと考えられます。イラン戦争勃発後の米国の長期金利の動きをみますと、原油価格の動きときれいに連動する形で長期金利が動いてきたことがわかります(図表1)。こちらのグラフから読み取れるのは、原油価格が10%上昇(下落)すれば、アメリカの10年国債金利が0.13%上昇(下落)するという関係です。戦争終結で原油価格が低下すれば、その分だけ、長期金利が下がっていくと見込まれます。
一方、日本の場合には、原油価格と10年債利回りの関係は4月の初めまでは密接でしたが、その後は、高市政権による積極的な財政政策が財政状態を必要以上に悪化させてしまうという懸念が台頭したことで、原油価格が示唆する以上に長期金利が上昇してしまいました。ただ、戦争終結の際には、2026年3月中にみられたように(図表2)、原油価格が10%低下すると、日本の10年国債金利が0.09%低下するインパクトが生じると見込まれます。
株式市場はどのようにリバウンドするか?
グローバル株式市場においては、イラン戦争後の株価下落率が大きい市場ほどリバウンドの動きが強くなる展開を見込みます。イラン戦争の直前と直近の主要株価指数を比較した騰落率を各国で比べると、AI関連銘柄への物色の強まりを主な背景として米国や日本、韓国、台湾などでの株価上昇が目立っているのに対し、インドネシアやインドや南アフリカなどの新興国やオーストラリアの株価が出遅れていることがわかります(図表3)。仮にイラン戦争の終結が視野に入る場合、これらの市場における株価のリバウンドが比較的大きくなる可能性が高いとみられます。株価についてのリバウンドの度合いは、債券市場と同様に、原油価格が低下するほど大きくなるとみてよいでしょう。ただ、インドネシアについては、直近の株価下落の背景に、イラン情勢だけではなく国内での政府の企業に対する統制強化の動きがありますので、イラン戦争の終結に伴うリバウンド力は他市場よりも弱いと見込まれます。
リバウンド局面での株価の動きについて、もう一つ考慮に値するのが、イラン戦争勃発後の3カ月間に、企業業績の見通しが多くの国で改善している点であり、この点も多くの国・地域における株価のリバウンドに寄与すると予想されます。アナリストが想定する1年先のEPS見通しがイラン戦争後の3カ月間で改善した度合いを、図表4の青い棒グラフで示しました。ここで、株価指数の騰落率を、この青い棒グラフで示す「利益改善による寄与度」とピンクの棒グラフで示す「それ以外の部分の寄与度」に分けてみました。ここで、「それ以外の部分の寄与度」がイラン戦争の影響で株価が受けたインパクトを表すと言えるでしょう。このグラフにより、イラン戦争後、これまでに株価が大きく上昇した韓国や台湾、米国、日本市場では、利益成長への見通しが株価上昇の原動力となってきたことがうかがえます。したがって、戦争終結が視野に入り、「それ以外の部分の寄与度」がリバウンドしてくれば、多くの地域の株式市場で株価の上昇が見込めます。
ここでイラン戦争勃発後の日米の株式市場のセクター別騰落率をみると(図表5)、日経平均株価、S&P500種株価はともに直近で史上最高値を更新していますが、イラン戦争後の騰落率をセクター別にみますと、日経平均株価については、情報技術や素材などのAI関連セクターは大きく上昇したものの、それ以外の多くのセクターは未だ出遅れていることがわかります。S&P500種指数についても、情報技術を中心に一部セクターが株価を引っ張ってきました。イラン戦争の終結が視野に入りますと、これまで出遅れていたセクターにおける株価のリバウンドが見込めます。
リバウンド局面が終わった後のグローバル株式市場の様相は?
リバウンド局面の終了後は、グローバル株式市場が新しい局面に移行すると見込まれます(図表6)。その際、新規の投資資金が、AI関連株以外にも流入していく形で分散投資が進むと思われます。地域的には、米国だけではなく、欧州・日本を含む多くの地域にバランスよくニューマネーが入っていく展開が見込まれます。米国のAI関連株には既に力強い動きが顕在化していますが、AI関連株以外にもニューマネーがしっかり入っていくでしょう。その際には、銘柄選別の動きがより強まっていくと予想されます。銘柄選別という点では、この数か月で市場での注目度が上がったのが、AI技術を活用してそれをいかにして収益につなげることができるかという観点です。この点で先行する銘柄には株式市場における評価が高まりやすいと思われます。一方で、中東紛争を受けて、政策面での軍事や経済安全保障の重要性がさらに高まってきました。防衛やサプライチェーン再編、再生エネルギー、原子力の分野にも注目したいと思います。
MC2026-064