フラッシュ・レポート:日銀が利上げを決定。年内に追加利上げへ
日本銀行は、9月17~18日に開催された金融政策決定会合で政策金利を1.00%から1.25%へと引き上げました。日本の大手メディアの多数が今回会合で日銀が利上げする意向を有していると事前に報道していたことから、今回の利上げは金融市場でほぼ完全に織り込まれていたと考えられます。日銀が利上げの必要性についてのロジックを変更したのは、7月会合でのことでした。それまでは、「政策金利が中立金利からかなり低い水準にあること」を理由とした利上げの必要性を主張していましたが、7月会合では、「基調的な物価上昇率が2%インフレ目標を超えて上振れるリスクへの対応」が理由とされ、今回の利上げでもそのロジックが踏襲されました。日銀の声明文では、金融環境が緩和的な状態が現在も続くもとで、今後も利上げを継続していく姿勢が示されました。
日銀の政策決定会合は、年内では10月29~30日と12月17~18日の2回を残すところとなりました。私は、4つの理由から、12月会合での1.50%への追加利上げが実施される可能性が高いと考えています。第1は、物価の上振れ懸念です。日本のヘッドラインCPI上昇率は8月に前年同月比で1.9%にとどまりましたが、エネルギー価格上昇の波及効果や円安の影響から2027年1-3月期には2%台後半に上昇する見通しです。家計や企業のインフレ期待が上昇することで、基調的なインフレ率が上振れるリスクが高まっていきます。第2は、FRB(米連邦準備理事会)のタカ派化に伴って円安リスクが高まった点です。今週のFOMC(米連邦公開市場委員会)では利上げが決定されるとともに年内の追加利上げ見通しが示されました。日銀が早期に追加利上げを実施しない場合、日米金利差の拡大が意識されて円安が進行し、インフレ圧力が高まるリスクが大きいと考えられます。第3は、米国政府からの働きかけが続くとみられる点です。米国政府は、円安が日本の長期金利を押し上げ、それが米国の長期金利に押し上げ効果を及ぼすことを懸念しているとみられます。ベッセント米財務長官は日本政府に対して、日銀の利上げを抑制しないように圧力をかけているとみられ、当面は日銀が利上げしやすい状況が続くとみられます。第4は、これまでの利上げが日本の経済活動に及ぼす抑制効果が限定的であったとみられる点です。直近までの日銀短観結果は、日銀の連続利上げにもかかわらず企業の資金繰り状況がほとんど悪化していないことを示唆しています。
2027年の金融政策については、日銀が3月、7月に利上げを実施して政策金利を2.00%まで引き上げたところで利上げを打ち止めにすると予想します。2027年央までには原油高や円安によるインフレ押し上げ効果がかなり剥落していくとみられるうえ、2027年4月から実施される食品部分の消費税の8%から1%への引き下げもあって、インフレが上振れするリスクは低下すると見込まれます。2027年央には今回の金融引き締め局面が終了する見込みです。
日銀による政策金利の正常化は終盤をうかがう状況になりましたが、これは、日本経済がデフレ状態から健全な形で脱却してきていることを反映しており、利上げによる景気への悪影響は限定的です。価格設定行動がより積極的となったことで、日本企業の業績は大きく回復してきましたが、直近で1人当たりの実質賃金上昇率が安定的にプラス化してきたことで、民間消費の持続的な拡大が視野に入ってきました。一方、人手不足と高市政権による戦略分野への投資促進策によって、設備投資は今後も堅調なトレンドになると見込まれます。今後中期的に予想される内需の拡大は、日本株にとっては好材料になるでしょう。利上げによる悪影響は借入金への依存度が比較的大きい不動産セクターなどにはマイナス材料ですが、利上げによって金融セクターの株価にはプラス効果が出る見込みです。他方、日本の10年国債金利が3%程度に上昇してきたことで日本国内外の投資家による日本の長期債への注目度が上昇しています。高市政権による食品分の消費税減税(2027年4月~2029年3月)や2029年4月以降に実施される予定の低中所得者向け給付プログラム、戦略17分野への財政支出プログラムによる財政赤字効果は既に金融市場でおおむね織り込まれていると考えられます。今後、原油価格が現在の高い水準から低下する可能性をふまえると、日本の長期債投資の投資妙味は高まったと考えられます。
日銀の政策に関連するリスクとしては、以下の3つが重要です。第1に、円安リスクが挙げられます。今後、日銀のコミュニケ―ションによって利上げペースの鈍化が示唆されたり、インフレ統計が市場の期待を大きく上回るようであれば、円安につながるリスクが高まります。これは、長期金利の上昇にもつながるでしょう。第2に、財政悪化懸念が挙げられます。高市政権が推進する減税・支出拡大プログラムの規模が想定外に拡大したり、そのファイナンスについての不透明感が強まれば、長期金利高・円安・株安という形で日本の金融市場が動揺するリスクがあります。この場合には、円安の抑制を念頭に置いた、利上げの積極化が想定されます。第3に、中東情勢の悪化によるエネルギー調達懸念リスクが挙げられます。足元で日本のエネルギー輸入はイラン戦争前の水準をおおむね回復しましたが、中東でのエネルギーインフラの破壊等によって輸入に支障を来たせば、エネルギー価格のさらなる上昇が日本のインフレを想定以上に押し上げるリスクが高まり、日銀は利上げをさらに積極的に推進することを迫られるでしょう。
MC2026-109