欧州バンクローン市場、月次アップデート 2022年8月
2022年7月の欧州バンクローン市場は、相対的に高く安定したインカムがプラスに寄与し、価格変動もプラスとなったことから、月間トータル・リターンは+2.37%となりました1
Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index(以下「CS WELLI」または「指数」)の2022年7月のトータル・リターンは+2.37%となり、内訳は価格変動が+1.99%、金利収入が+0.37%となりました。年初来のリターンは▲4.57%となっています1 。
金融市場は、引き続き次の3つのテーマの解釈を巡って変動しています。
(1)ユーロ圏のインフレ率が8.9%となり、再び過去最高を更新
(2)欧州中央銀行(E C B)の利上げ開始と利上げによる域内経済成長への影響
(3)ロシアからの供給が細りつつある天然ガス等が配給制となる場合の経済成長への影響
CLO新規発行市場では、5件で約20億ユーロのCLOが発行されました。6月の新規発行額がわずか4億ユーロで、2021年7月の水準から約4割減の発行額となっていることを鑑みれば、7月は好調だったと言えるでしょう。新規発行されたCLOのほとんどは、以前に合意されていた低いスプレッドで発行される“print and sprint’”案件か、もしくは期待されるエクィティのリターンが低い案件かのどちらかでした。新規発行CLO(AAA格)のスプレッドはEURIBOR+220bp程度に達し、CLO裁定取引は依然として困難な状況です。
しかしながら、CLOの新規発行はバンクローンの流通市場を支えとなり、特に高格付けローンへの需要が高まりました。全体として、7月の欧州バンクローン市場の平均価格は1.85ユーロ上昇し、92.11ユーロとなりました。
7月のバンクローンの新規発行額は17億ユーロとなり、当月は小幅に増加しました。新規発行のほとんどは、よく知られた発行体からの小口の追加発行でした。好業績企業によって発行される保守的なローンであれば、EURIBOR+500bp程度のクーポンで額面の95%程度(つまり5ポイントのOID)でローンを発行することができ、投資家に魅力的な利回りを提供しています。また、デフォルト率はさほど上昇していません。
新規CLOの発行は継続している一方で、改善しつつあるもののパイプラインの消化スピードが低く、CLOの資金調達コストが上昇していることから、当面、発行額は低水準にとどまるものと思われます。
月末のCS WELLI の額面価格合計(市場規模)は約4,160億ユーロとなり、7月は前月比0.9%、年初来で7.5%増加しました1 。
リターン
7月のCS WELLIのセクター別リターンは、全てのセクターがプラス・リターンとなりました。最も高いパフォ-マンスとなったセクターは、メディア・通信の+3.64%、続いて食品・タバコの+3.21%、非耐久消費財の+2.80%となりました。最もパフォーマンスが低かったセクターは、金属/鉱業の+0.56%、耐久消費財の+0.58%、航空宇宙の+0.85%、でした 1。
格付け別では、7月は「B」格が+2.66%と最も高く、「BB」格が+2.19%1 、「CCC」格が最も低い+1.54%となりました1。
7月末におけるCS WELLI構成銘柄の平均価格は、前月末比1.85ユーロ上昇し、92.11ユーロでした1。CS WELLIの3年ディスカウント・マージンは6.51%で、前月末比▲0.74%縮小しました1。
7月のクレディ・スイス欧州ハイ・イールド債券(Credit Suisse Western European High Yield)指数は+4.45%のリターン(年初来では▲11.11)となり、スプレッド・トゥ・ワーストは6.20%でした3。
ファンダメンタルズ
2022年4ー6月期のユーロ圏GDP(速報値)は前四半期比0.7%増(前年同期比4.0%増)となり、予想を大きく上回りました。コロナ規制が緩和され、観光が回復したイタリア、スペイン、フランスが予想以上の伸びを示した一方で、ドイツは外部環境が悪化し、主要製造業が供給不足に見舞われたため、予想を下回りました。ユーロ圏GDP成長率はコロナ禍前の数値を約1.4%上回っているものの、コロナ禍以前の経済成長が継続していた場合の水準にはまだ追いついていません。
7月のユーロ圏消費者物価指数は、前年同月比8.9%と再び上昇しました。エネルギー価格と食品価格の上昇が、インフレ上昇の主要因となっています。天然ガスの先物価格が先高となっていることを鑑みると、今後数カ月はインフレ圧力が高止まりし、インフレがなかなか低下しないリスクが顕在化しています。インフレが高止まりする一方で、賃金の急上昇はあまり見られず、5年後スタートの期間5年のユーロのインフレスワップは現在2%前後で安定しました。
高騰するインフレを背景に、欧州中央銀行(ECB)は10年以上ぶりに利上げを実施しました。まず三つの主要政策金利を0.5%引き上げ、預金ファシリティ金利を0%に据え置きました。ECBは6月の定例理事会では今回の措置とは異なる0.25%の利上げを明確に示唆していましたが、今やフォワードガイダンスはやや無意味なものとなっています。また、ECBは欧州各国が発行する国債の利回り格差を是正する、伝達保護装置(TPI:Transmission Protection Instrument )を新たに導入しました。TPIは、「ユーロ圏全体の金融政策の伝達にとって深刻な脅威となり、不当で無秩序な金融市場の動きに対処するために発動できるもので、債券の購入は事前には制限されない」5としています。TPIは、例えば適用対象国がEUの財政枠組みを遵守していることなどを条件として、当該国に適用されることになります。しかしながら、足元では、イタリアのドラギ首相が辞任し、9月にイタリアで総選挙が行われることや、制度自体が複雑であることから、TPI導入に対する金融市場の反応は総じて限定的でした。
ユーロ圏の経済指標は悪化しており、消費者信頼感指数は史上最低となりました。7月のユーロ圏購買担当者景気指数(PMI)の確定値は49.9となり、ユーロ圏全体の経済活動はセクターや国を越えて広範に鈍化していることが明らかになっています。
2022年4ー6月期の経済成長の牽引要因、PMI、消費者信頼感指数、高止まりするインフレ、与信条件の厳格化など、これらすべてが今夏以降の経済活動の縮小を示唆しています。欧州経済の落ち込みの程度は、ウクライナ紛争とロシアからのガス供給に左右されます。欧州各国は今冬に備え、ガス消費を自主的に削減し、在庫を積み増すことで合意しています。ロシアがノルドストリーム1でのガス供給量を従来の2割に削減したため、エネルギーが配給制になる可能性が高まっています。産業向け及び家庭向けの配給が導入されれば、ユーロ圏の経済成長率はマイナスとなる可能性が高いと見られます。
7月末現在、S&P欧州レバレッジド・ローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は0.62%でした4。過去平均は年3.09%です4。
脚注
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1
1.Credit Suisse Western European Leveraged Loan Index (CS WELLI)、ユーロ建てヘッジ付き、2022年7月31日現在。過去の実績は将来の成果を保証するものではありません。指数に直接投資することはできません。
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2
ストックス欧州600指数およびS&P500指数は、2022年7月31日現在。
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3
Credit Suisse Western European High Yield Indexはユーロ建て、2022年7月31日現在。
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4
S&P European Leveraged Loan Index。過去の平均デフォルト率は、2007年7月1日から2022年7月31日までを対象に集計しています。
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5
欧州中央銀行(E C B)の2022年7月21日のプレスリリースを参照。
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