成長か、それとも危機か:金利上昇という現実を読み解こうとする市場
〔要旨〕
- 利回りの上昇は、人によって異なるストーリーで捉えられ得る。一部の投資家が債務危機の兆候を見て取るかと思えば、他の投資家は、底堅さを保ち、金利上昇に耐えうる経済を見て取るといった具合
- 主要な市場指標は債務危機を示唆していない。ドルは堅調に推移し、インフレ期待は抑制されており、クレジット・スプレッドは比較的タイトな水準を維持している
- より重要な論点は、成長が力強いか、あるいは減速しつつあるかという点かもしれない。いずれの場合も株式にとってプラスとなり得るが、それぞれ異なる銘柄群が市場を牽引する可能性がある
債務危機の初期段階かどうかについての議論
シクリカルな(景気感応度の高い)分野への影響
株式にとって好ましい環境
注目の日程
何かをロールシャッハ・テストになぞらえるのは、もはやお決まりのようになっています。あなたには2人の人物の姿が見え、私には象が見えるといった具合です。同じ画像を見ているのに、まったく異なる結論に達するのです。
しかし本来ロールシャッハ・テストは、それのみで分析されることを意図したものではなかったと考えられます。心理学者は、インクの染み1つで診断を下したはずはありません。診断結果は、他の検査や観察、証拠と併せて解釈されました。文脈が重要だったのです。
今日の市場についても、同じことが言えるのではないでしょうか。
投資家達は、米国10年物国債利回りのチャートを見て、全く異なる結論に達し得ます。かねてから言われてきた、債務の清算の時が来たと見る投資家もいるかもしれません。長年にわたる巨額の財政赤字、膨れ上がる政府債務、拡大する借入需要1、これらのツケがついに米国に回ってきたのかもしれないとの見方です。他方で、違ったものを見て取る投資家もいるかもしれません。彼らはむしろ、驚くほど底堅さを保つ経済2、人工知能(AI)関連の巨額の投資3、そして生産性上昇が実質金利を押し上げる見通し4などを見出します。
いずれも同じチャートを見ているのに、です。
債務危機の初期段階かどうかについての議論
債券利回りの上昇が続くなか、この議論は激化しています。危機であるとのストーリーに拍車をかけるように、フランス国債の対ドイツ国債スプレッドが急拡大しており5、金利上昇局面で先進国が巨額の財政赤字を維持し続けられるのか、との疑問が浮上しています。多くの人々が、フランスは世界の債券市場にとって重要な試金石となるだろうと見ています。
しかし、現在目の当たりにしているのが債務危機かどうかの判断には、他の検査結果と併せた検証が役立ちます。
仮に投資家が、米国の財政の持続可能性への信認を本当に失いつつあるのであれば、ドルの急落が予想されるでしょう。しかし実際には、ドルは堅調さを維持しています6。また投資家が財政規律の悪化に見合う見返りを求める中で、インフレ期待のアンカーが外れる(不安定化する)と予想されるかもしれません。しかし、長期のインフレ期待は比較的抑制された状態を保っています7。
クレジット市場が示すストーリーは、もう少し微妙なニュアンスを帯びています。確かにストレスが見られる分野もあります。ハイイールド市場の低格付けセグメントではスプレッドが顕著に拡大していますが8、これは驚くには当たりません。借り換えに依存している信用力の低い企業は、借入コストが上昇すれば当然脆弱になり得るからです。
しかしより広い視点で見れば、状況はそれほど憂慮すべきものではないかもしれません。投資適格債のスプレッドや、最低格付けの層を除くハイイールド債のスプレッドは小幅な拡大に留まり、歴史的に見ても比較的タイトな水準を維持しています9。私の見るところ、クレジット市場が示しているのはパニックではなく、警戒感です。
そのため私は、今が債務危機の初期段階にあるという考え方には賛同しにくいと感じています。
シクリカルな(景気感応度の高い)分野への影響
私が実際に起きていると考えているのは、金利と原油価格の上昇が、経済の中でも景気感応度の高い分野に対して、有意な影響を及ぼし始めているということです。かねてより予想され、一時的に実現したブロードニング・トレード(投資対象の裾野拡大)は、経済活動とより密接に結びついたセクターが資金調達コストとエネルギー価格の上昇圧力に直面する中で、最近苦戦を強いられています10。経済は、金利上昇の影響を免れることはできません。私は経済が、経済学の教科書通りの反応を示してきたと考えています。
おそらくこれこそが、最も重要な点です。金利上昇への解決策は、往々にして金利上昇そのものでした。
金利が一定の水準に達すれば、借入コストは需要を冷やし、経済活動を減速させ、そもそも利回りを押し上げた圧力を緩和するほど抑制的となり得ます。金利が十分高くなれば、成長は減速する可能性があります。成長が減速すれば、最終的に金利の上昇は止まり、低下に転じる可能性さえあります。
だからこそ私は、この議論は「成長か危機か」というよりも、「力強い成長か減速しつつある成長か」で捉えるべきものではないかとの見方を強めています。
株式にとって好ましい環境
いずれの結果でも、株式にとって好ましい環境と整合的となり得ます。違いは、市場の牽引役となる銘柄に表れる可能性が高いでしょう。力強い成長は、これまでシクリカルなセクターおよび市場全体の裾野拡大に有利に働いてきました11。成長減速の見通しを受けて、市場の牽引役はハイクオリティ銘柄やメガキャップ・グロース銘柄へと再び移行したとみられます12。
インクの染みは、人によって違って見えるかもしれません。しかし、一歩引いてあらゆる検査結果を総合的に見ると、私には、危機に陥った経済ではなく、金利上昇に適応した経済と市場が見えています。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
10月12日 |
米国 |
コロンブス・デー(祝日)、米国債券市場休場 |
米国株式市場は取引が行われる中、米国債市場の流動性低下が取引環境に影響し得る |
10月12日 |
日本 |
スポーツの日(祝日)、市場休場 |
市場の休場により、週初めの当該地域の流動性が低下し得る |
10月13日 |
米国 |
中古住宅販売件数(9月) |
住宅ローン金利が高騰する中での住宅需要と住宅取得のしやすさ |
10月14日 |
米国 |
消費者物価指数(CPI)(9月) 地区連銀経済報告(ベージュブック) |
金融政策の見通しを形成し得るインフレ動向と地域の経済状況 |
10月14日 |
中国 |
消費者物価指数(CPI)、生産者物価指数(PPI)(9月) |
国内需要の状況と追加的な政策支援の必要性を示唆し得る消費者物価と生産者物価(工場出荷価格)のインフレ動向 |
10月15日 |
米国 |
小売売上高(9月) 生産者物価指数(PPI)(9月) 新規失業保険申請件数 |
消費需要、川上段階のインフレ、労働市況を適時に把握する指標 |
10月15日 |
日本 |
コア機械受注(8月) 鉱工業生産確報値(8月) |
日本の成長見通しの手掛かりとなる企業の設備投資意欲と製造業の勢い |
10月15日 |
英国 |
月次国内総生産(GDP)(8月) 鉱工業生産・建設業生産(8月) |
イングランド銀行の見通しの判断材料となる経済の勢いとセクター別の活動状況 |
10月16日 |
米国 |
輸出入物価指数(9月) 鉱工業生産・設備稼働率(9月) |
貿易関連の価格圧力と、米国の製造業・公益事業の生産の強さ |
10月16日 |
ユーロ圏 |
EU基準消費者物価指数(HICP)確報値(9月) |
欧州中央銀行の政策見通しに影響を与え得るインフレデータの確報値 |
MC2026-116