なぜ強気相場は弱気派の予想を覆し続けているのか
〔要旨〕
- 原油価格の上昇、債券利回りの上昇、金融引き締めにもかかわらず、名目成長率および企業収益が底堅さを維持する中で、株価は史上最高値付近に留まっている
- クレジット・スプレッドは引き続き落ち着いており、経済活動が拡大しつつあり、家計・企業のバランスシートが健全であることから、追加利上げの影響は限定的となる可能性がある
- 経済のエネルギー集約度が低下し、ガソリンに費やされる家計所得の割合も低下している。また供給の混乱は、一時的なものにとどまる可能性がある
懸念点:金利をめぐるFRBの動き
懸念点:原油価格
注目の日程
S&P 500種指数が8月13日に史上最高値を更新してから、1カ月余りが経ちました1。それ以来投資家は、一見すると気が重くなるような様々な出来事への対応を迫られてきました。原油価格は1バレル当たり20ドル超も上昇しました2。米国2年物国債利回りはおよそ0.6%上昇し3、米国10年物国債利回りも約0.4%上昇しました4。米連邦準備理事会(FRB)が利上げを行い、日銀も金融引き締めに動きました。サウジアラビアの東西パイプラインが爆撃され、世界のエネルギー供給への懸念が高まりました。
それにもかかわらずS&P 500種指数は、史上最高値をわずかに2.07%下回る水準に留まっています5。
これは、ベア(弱気)派にとって苛立たしい状況に違いありません。
彼らは、懸念点が長々と連ねられたリストに気を取られ過ぎて、それらが展開しつつある状況の背景に十分焦点を当ててこなかったのかもしれません。市場は周囲の環境と切り離されて存在するわけではなく、リスクと経済・企業のファンダメンタルズを天秤にかけ、それらを織り込んでいくメカニズムです。今このファンダメンタルズは引き続き、大方の予想よりかなり良い状態にあるように見えます。堅調な名目成長率と6、またもや予想を大きく上回った企業収益が7、高まりつつある「不安の壁」の相殺に寄与してきました。
市場の最大の懸念点のうち2つについて、詳しく見ていきましょう。
懸念点:金利をめぐるFRBの動き
年初の段階では、大半の投資家が金利低下を予想していました。一時、市場はFRBによる利下げを最大3回まで織り込んでいました8。米国2年物国債利回りは、イランとの紛争が始まる直前の2月末時点で3.38%まで低下していました。それが今日では、4.73%付近で推移しています9。
これは大幅なリプライシング(織り込み直し)です。私には、多くの面で金融市場はFRBに先んじて引き締め効果を織り込み、実質的にFRBの仕事のかなりの部分をすでに果たしているように見えます。
注目すべきは、「何が起きていないか」ということです。クレジット・スプレッドは落ち着いて推移しており10、米国株式市場もこうした状況を概ね消化しています11。経済活動は拡大を続けています12。金利上昇が経済全体に大きなストレスを生じさせたのであれば、そのプレッシャーがより幅広い金融環境に表れてきているはずです。
実際、足元の経済は、特段過剰なレバレッジを抱えているわけではありません。消費者のバランスシートは比較的健全な状態にあります13。企業もほぼ、低金利のうちに債務の借り換えを済ませています14。金利が上昇しても、深刻な打撃を受ける借り手が比較的少なければ、成長が劇的に減速する可能性は低いと考えられます。ここで1つ、重要な疑問が生じます。米国2年物国債利回りが2月の低水準から1.35%上昇したことを市場が既に織り込んでいるのであれば、FRBがあと2~3回利上げした場合の追加的な打撃はどのぐらいになるでしょうか?私は、その懸念の大部分が既に織り込まれている可能性は十分にあると考えています。
懸念点:原油価格
エネルギー価格の上昇が「不都合な真実」であることには違いありません。ガソリン価格の上昇は消費者にとって税金のように作用し、消費者心理の重石となる可能性があります。ただし、重要なのは文脈です。
世界経済のエネルギー集約度は、数十年前と比べてはるかに低下しました15。今年に入った段階で、米国消費者が可処分所得のうちガソリン代に費やす割合は、近代史上類をみない低水準でした16。だからといって、エネルギー価格の高止まりが無害になるわけではありません。現在の水準が長期にわたって続けば、成長の減速にもつながりかねません。「続けば」というところがキーワードです。
市場の懸念の多くは、イランとの紛争からくる供給途絶の可能性に結びつくものでした。ホルムズ海峡を通過する原油量は日量およそ1,500万バレルに上り17、サウジアラビアの東西パイプラインを含む代替ルートが、こうしたリスクを一定程度緩和していました。同パイプラインへの爆撃が痛手であることは明らかですが、推定では、修復に要する期間は数カ月や数年ではなく、数日から数週間で済む可能性が示唆されています。
他方、経済データは引き続き堅調さを示しています。小売売上高は持ちこたえており18、製造業活動もしっかりとした動きを維持しています19。企業利益の伸びも、力強さを維持しています20。
言い換えれば、紛争発生当初に市場が抱いた最悪の懸念の多くが、現実のものとなったということです。エネルギー価格は上昇し21、供給インフラが損傷を受けました。中央銀行は金融引き締めに動き、債券利回りが急激に上昇しました22。
それでも依然として、S&P 500種指数は、史上最高値をわずかに2.07%下回る水準を保っています23。
私には、これは脆弱な市場というより、「不安の壁」を登り続けてきた市場のように思われます。歴史が示すとおり、懸念が存在しない中で強気相場が進展したことは殆どありません。強気相場が進展したのは、ファンダメンタルズが、そうした懸念よりも強いことが証明された時です。今起きていることがまさにそうであるように、私には思われます。
注目の日程
公表日 |
国・地域 |
指標等 |
内容 |
|---|---|---|---|
9月21日 |
英国 |
消費者信頼感(9月) |
家計の信頼感と支出の見通し |
9月22日 |
米国 |
リッチモンド連銀製造業指数(9月) |
地域の工場活動、受注、価格圧力 |
9月23日 |
米国 |
S&Pグローバル製造業・サービス業購買担当者景気指数(PMI)速報値(9月) |
企業活動、需要、雇用、価格を早期に把握する指標 |
9月23日 |
ユーロ圏 |
S&Pグローバル製造業・サービス業購買担当者景気指数(PMI)速報値(9月) |
ユーロ圏全体の成長モメンタムとインフレ圧力 |
9月23日 |
英国 |
S&Pグローバル製造業・サービス業購買担当者景気指数(PMI)速報値(9月) |
イングランド銀行の政策決定後の業況 |
9月24日 |
米国 |
新規失業保険申請件数 新築住宅販売件数(8月) |
労働市況と金利に敏感な住宅市場の需要 |
9月25日 |
米国 |
耐久財受注(8月) ミシガン大学消費者信頼感指数(9月、確報値) |
企業の設備投資、高額財への需要、家計のインフレ期待 |
MC2026-110