米中間選挙と「給付金インフレ」リスク
要旨
米中間選挙は現時点で民主党が優勢
11月3日に実施される予定の米国中間選挙戦においては、上下両院とも民主党が優勢と判断されます。現時点の「メインシナリオ」は、民主党が上院、下院のどちらか、あるいは両方で過半数を獲得するというシナリオであり、共和党が上下両院で過半数の議席を獲得するシナリオは「リスクシナリオ」と位置付けられます。
共和党が大勝すれば給付金を巡って金融市場が動揺するリスク
リスクシナリオ(共和党が上下両院での多数派を維持するシナリオ)が実現する場合には金融市場が動揺するリスクがあります。これは、トランプ大統領が提案している成人1人当たり5,000ドルの給付措置がインフレを加速させるリスクがあるためです。一方、メインシナリオ(民主党が上院、下院のどちらか、あるいは両方で過半数を獲得するシナリオ)においては、選挙という不透明感がなくなることに伴う株高・債券高効果が短期的に期待できます。ただし、現行政策が大幅に変更される可能性が低下することで、その後の金融市場へのインパクトは限定的と見込まれます。
民主党勝利の場合は「現状維持」の2年間が視野に入る
メインシナリオの「ねじれ政治」の下では、与野党のどちらかがイニシアチブをとって思い切った予算措置を講じたり、現行法を大きく修正することは難しくなるでしょう。これは、金融市場にとっては決して悪材料ではありません。「ねじれ政治」の下では、トランプ政権が国防予算の分野などで拡張的な予算措置を講じる提案をしても、そうした予算案は通過しにくいことから、財政赤字は抑制されやすくなります。また、民主党がAI企業に対する規制を強化する法案を議会で通過させたとしても、トランプ大統領が拒否権を発動することで、立法化が阻まれることが予想されます。
米中間選挙は現時点で民主党が優勢
11月3日に実施される予定の米国中間選挙があと20日弱に迫ってきました。現時点では、上下両院とも民主党が優勢という評価が多く、私もそのように判断しています。米国の中間選挙は、4年ごとに実施される大統領選挙の中間の時点で実施されますが、過去の連邦議会議員選挙では現職大統領を擁する政党が不利になることが多くありました。これは高い期待を受けて当選する大統領がその後支持率を低下させることが多かったことを反映しています。今回もその例外ではなく、TrumpInsightが各種世論調査の結果を平均したところ、2025年1月の就任当初は50%を超えていたトランプ大統領への支持率は、直近では35%程度にまで低下してきました(図表1)。一方、直近の不支持率は60%を超えています。現状では、
メインシナリオ:民主党が上院、下院のどちらか、あるいは両方で過半数を獲得するというシナリオ
リスクシナリオ:共和党が上下両院で過半数の議席を獲得するシナリオ
としてとらえることができるでしょう。
もっとも、大統領への支持率が選挙区での獲得議席の差にそのままつながるわけではありません。選挙区ごとの情勢分析で定評のあるクック・ポリティカル・レポートの分析によると、上院で7選挙区、下院で21選挙区ある「接戦区」において、どちらの政党の候補が議席を獲得するかで、過半数を獲得する政党が決まります(図表2)。
共和党が大勝すれば給付金を巡って金融市場が動揺するリスク
それぞれのシナリオについて、今回の米中間選挙の結果が米国の政策や金融市場にどのように影響するかについて考えてみたいと思います。結論から言うと、リスクシナリオ(共和党が上下両院での多数派を維持するシナリオ)が実現する場合には金融市場が動揺するリスクがある一方、メインシナリオ(民主党が上院、下院のどちらか、あるいは両方で過半数を獲得するシナリオ)においては、選挙という不透明感がなくなることに伴う株高・債券高効果が短期的に期待できるものの、「ねじれ政治」の下で現行政策が大幅に変更される可能性が低下することで、その後の金融市場へのインパクトは限定的と見込まれます。
リスクシナリオが実現する場合に金融市場が動揺する可能性があるのは、共和党が上下両院で多数派を獲得した場合に、トランプ大統領が成人1人当たり5,000ドルを給付する政策を公約としているためです。共和党議員の中にはこのバラマキとも言える給付金プログラムに反対する議員もいるとみられるものの、選挙戦での劣勢を跳ね返して共和党が過半数を確保する場合にはトランプ大統領の求心力が高まりやすく、給付法案が議会を通過する可能性が出てくると見込まれます。
この政策を実行する場合には総額で1.2兆ドル程度が給付されるとみられますが、これは家計の可処分所得の5.0%に相当する規模となります。ここで思い出されるのが、第1次トランプ政権とバイデン政権の下で3回にわたって実施された給付金プログラムです。特に規模が大きかったのは、バイデン大統領の就任直後の2021年3月に実施された1人当たり1,400ドルの給付プログラムであり、家計の急激な所得増加につながりました。他のプログラムによる移転所得が増加したこともあり、同月の家計の可処分所得は前年同月比で34.1%増加しました(図表3)。支給に伴って、米国の民間消費はその後12カ月連続で二桁の伸びを維持しましたが、これが、コロナ禍での供給不足の問題と相まって2021~2022年にかけての高インフレにつながりました(図表4)。
この想定外の高インフレがFRB(米連邦準備理事会)による政策金利の引き上げと、長期金利の上昇、株価の下落につながりました。2020~2021年に実施された3回の給付金の総額は当時の米国家計の可処分所得の4.7%に相当するものでしたが、今回トランプ大統領が提案している給付金プログラムは1回で同5.0%の規模です。これが仮に実行されるようなことがあれば、需要サイドからのインフレ(ディマンドプル・インフレ)圧力によって米国のインフレが急加速する懸念を呼び、FRBのタカ派化と株価・債券価格の大幅な下押しを招来するリスクが意識されやすいことには注意が必要です。
民主党勝利の場合は「現状維持」の2年間が視野に入る
一方、中間選挙の結果がメインシナリオの通りになる場合には、5,000ドル給付案が成立する可能性が大きく低下します。これに伴う安心感が短期的に市場での株高・債券高につながる可能性がありますが、それはメインシナリオの可能性がどの程度金融市場で織り込まれるかに左右されるでしょう。
「大統領が共和党、議会の多数派が民主党」という構図の下では、大統領が法案を提案したとしても、議会民主党がそれを承認しない限りは法案が成立しません。逆に、民主党がある法案の成立を目指したとしても、大統領が拒否権を発動すれば、拒否権を覆す3分の2以上の票を集めない限りは再可決することができません。現時点では、今回の選挙後に民主党の保有議席数が全体の3分の2を超える可能性は低いことから、拒否権を覆して民主党が法案を成立させるハードルは非常に高いと見込まれます。このため、「ねじれ政治」の下では、与野党のどちらかがイニシアチブをとって思い切った予算措置を講じたり、現行法を大きく修正することは難しくなるでしょう。これは、金融市場にとっては決して悪材料ではありません。「ねじれ政治」の下では、トランプ政権が国防予算の分野などで拡張的な予算措置を講じる提案をしても、そうした予算案は通過しにくいことから、財政赤字は抑制されやすくなります。また、民主党がAI企業に対する規制を強化する法案を議会で通過させたとしても、トランプ大統領が拒否権を発動することで、立法化が阻まれることが予想されます。
最後に、メインシナリオの下での金融市場にとってのリスクとして、①予算案がこれまでよりも議会を通過しにくくなることで、政府閉鎖の可能性が高まりやすいこと、②連邦政府の債務上限の引き上げ法案をめぐって与野党が対立する可能性が高まること、を挙げたいと思います。ただし、②については、2025年に連邦政府の債務上限額が5兆ドル引き上げられたことで、すぐには問題になりそうにありません。中立的なシンクタンクである「責任ある米国予算委員会(Committee for a Responsible Federal Budget)」は、2027年半ばから終わりにかけて連邦政府債務上限を引き上げる必要が出てくると分析しています。
MC2026-118