グローバル・ビュー

「株高・債券安定」の均衡が揺らぐグローバル市場

Invesco Global View
要旨
「株高・債券安定」の均衡が揺らいで「債券安⇒株安」に

私は、グローバル金融市場において、これまでの「株高・債券安定」という均衡に揺らぎが生じたことが、この状況下での債券・株式市場の弱さにつながってきたと考えています。7月下旬までのグローバル市場では、債券価格がある程度下落する中でも、株価が概ね堅調さを維持するという「株高・債券安定」の状況にあり、それが、多くの投資家に一定の安心感をもたらしてきたと考えられます。しかし、この「株高・債券安定」の均衡は7月下旬以降に揺らぎ始めました。2026年6月以降に米国の株価上昇ペースが鈍化したことで、リバランスによる債券購入の需要が低下したとみられます。これに原油価格の再上昇やFRB(米連邦準備理事会)のタカ派化などの材料も加わって株価に下押し圧力をもたらしています。

短期的にはグローバル市場が揺らぎ続けるリスクに注意

私は短期的には警戒を緩めるべきではないと思います。もっとも、8月分の米雇用統計や米CPI・PPI統計が市場見通し程度に落ち着き、さらに来週にニューヨーク連銀が公表する予定の家計の3年先期待インフレ率が上振れなければ、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げについての期待度は低下するとみられます。

足元のインフレが供給サイドのインフレである点は重要

もう一つ言えることは、現在のグローバル金融市場における課題が原油高に伴う供給サイドからのインフレ問題であるという点です。供給サイドのインフレが顕在化する短期間の間は、景気に下押し圧力がかかりますが、それが過ぎれば、景気への悪影響が剥落し、企業業績が再び改善して、株価が上昇する局面が訪れるはずです。

 

「株高・債券安定」の均衡が揺らいで「債券安⇒株安」に

 7月下旬以降、米国の10年国債金利は4.6%を超える高水準で推移する一方、代表的な株価指数であるS&P500種指数は8月中旬以降、やや下落するトレンドとなってきました。私は、グローバル金融市場において、これまでの「株高・債券安定」という均衡に揺らぎが生じたことが、この状況下での債券・株式市場の弱さにつながってきたと考えています7月下旬までのグローバル市場では、債券価格がある程度下落する中でも、株価が概ね堅調さを維持するという「株高・債券安定」の状況にあり、それが、投資家に一定の安心感をもたらしてきたと考えられます(図表1)。第2トランプ政権が誕生した2025年1月から2026年7月下旬にかけて、米10年国債金利は概ね4.0~4.6%のレンジ内で推移していました。この背景には、株価が堅調に推移する中、米国の年金基金など中長期で資金運用する機関投資家が、株価が上昇して債券価格が下落したことで、「株式を売って債券を買う」という形のポートフォリオ・リバランス取引(ポートフォリオにおける株式と債券の割合をそれぞれ一定水準に維持するための取引)を実施したことがあったとみられます。リバランス目的で債券を買う動きが強まったことで、債券価格の大幅な下落を回避することができました

(図表1)S&P500種指数と米10年国債金利の推移

 株価が堅調であったのは、投資フローの面からみると、米国の家計と米国以外の投資家が株式への資金配分を増やしたことが大きかったと思われます。米国の家計は、トランプ政権の追加関税策やイラン戦争の勃発によってインフレ圧力が強まった環境下で、債券投資や不動産投資に対して慎重となり、消去法的に株式への投資に積極的に取り組みました。特に、イラン戦争の勃発後は、AI関連株が注目され、多くの資金を集めました。収益見通しが大きく改善したハイパースケーラーや半導体関連などのAI関連株はイラン戦争による悪影響を受けにくい、との認識が広がったことがその背景です。

 しかし、この「株高・債券安定」の均衡は7月下旬以降に揺らぎ始めました。2026年6月以降に米国の株価上昇ペースが鈍化したことで、リバランスによる債券購入の需要が低下したとみられます。また、それ以外の6つの材料も米長期金利の押し上げ圧力につながったとみられます。第1に、2026年7~8月にはハイパースケーラーが大型の起債に踏み切ったことで米国債券市場での需給が緩みました。第2に、イラン紛争の長期化に伴って米国の国防支出が想定外に大きく増加し、財政赤字につながるとの懸念が台頭しました。第3に、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づいてトランプ政権が発動した相互関税について、米国国際貿易裁判所が5月下旬に違法と判断して以降、関税収入による財政赤字の削減が困難となるという見方が強まりました。第4に、日本の10年国債金利の上昇が続いたことで、米国の国債金利にも押し上げ効果が及びました。第5に、8月下旬からは、イラン情勢が悪化して原油価格が急上昇したことで、高インフレの長期化がFRB(米連邦準備理事会)の政策スタンスのタカ派化につながるという見方が台頭しました。第6に、8月27日のジャクソンホール会議でウォーシュFRB議長がタカ派的と受け止められる発言をしたことも、FRBの利上げ観測をさらに強めることになりました。これらの長期金利上昇要因が作用することで、米10年国債金利は2026年7月下旬から4.6~4.7%のレンジに切り上がり、9月2日には一時的に4.8%にまで上昇する事態となりました。

 米長期金利の上昇は、株価にも影を落としはじめたようです。グローバル株式市場では、先に挙げた直近での原油価格の上昇やFRB政策スタンスのタカ派化が株安材料となっていますが、長期金利の上昇が米国景気や企業業績に及ぼす悪影響も無視できない材料になりつつあります。FRBのデータによると、米国の企業部門による2026年3月末における借り入れ残高は14.5兆ドルでした。その60%程度を占める社債・レベニュー債はそのほとんどが長期固定金利による調達であることから、長期金利の上昇は企業の借入れコストや設備投資意欲に大きく影響します。米国株式市場では、長期金利の上昇がもたらす業績への悪影響が株価への下押し圧力を生み、それがグローバル株式市場への下押し圧力につながっています。ブレント原油価格が直近のボトムをつけた8月4日から9月2日までのS&P500種指数の主要セクター別株価騰落率をみると、上昇したのはエネルギーセクター、ヘルスケアセクター、素材セクターの3セクターのみでした(図表2)。

(図表2)S&P500種指数のセクター別騰落率(8月4日から9月2日まで)
短期的にはグローバル市場が揺らぎ続けるリスクに注意

 それでは、グローバル市場における「株高・債券安定」の均衡は今後も揺らぎ続けるのでしょうか?私は短期的には警戒を緩めるべきではないと思います。今後公表される8月分米雇用統計が想定以上に強かったり、8月分米物価指標が市場予想よりも大幅に上振れるようなことがあれば、9月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げの可能性が強く意識され、債券価格・株価の下落リスクが高まります。また、米国とイランとの戦闘が激化すれば、イラン戦争の出口が遠のくとの認識が広がり、原油高がインフレ加速を通じてグローバル景気に悪影響をもたらすとの見方が強まるでしょう。

 もっとも、8月分の米雇用統計や米CPI・PPI統計が市場見通し程度に落ち着き、さらに来週にニューヨーク連銀が公表する予定の家計の3年先期待インフレ率が上振れなければ、9月FOMCでの利上げについての期待度は低下するとみられます。仮に株価の下落幅が大きくなるのであれば、トランプ大統領が対イランである程度妥協して、戦争終結に向けた努力を強めることで、金融市場の混乱を回避しようとすると考えられます。ホルムズ海峡を通じた中東からの原油・天然ガスの輸出量が改善に向かう場合は、原油安がインフレ安定につながるとの期待を生み、債券価格と株価が共に前向きの動きを回復すると見込まれます。これは、AI関連株だけではなくAI関連以外の銘柄群に恩恵をもたらし、出遅れ銘柄のリバウンドを促進すると予想されます。地域的には、多くの先進国・新興国株式市場でリバウンドがみられるでしょう(当レポートの7月23日号「AI株を軸に戦争開始後のグローバル株市場を読む」をご参照ください)。

足元のインフレが供給サイドのインフレである点は重要

 もう一つ言えることは、現在のグローバル金融市場における課題が原油高に伴う供給サイドからのインフレ問題であるという点です。これまで、多くの主要国・地域では、原油高によるインフレ圧力が景気への下押し圧力をもたらしてきました。しかし、これはあくまで原油高という供給サイドからのインフレの問題にすぎません。主要国・地域は、今のところ、原油や天然ガスの供給を調達先の多様化などによって確保しています。これが確保され続ける限りは、問題は原油などのエネルギー価格の高騰だけです。足元でのブレント原油価格は1バレル=95ドル程度ですが、これによってインフレや景気に影響が及ぶ期間は数四半期であり、原油価格が毎年持続的に上昇を続けない限りは景気やインフレへの悪影響は続きません。現在、主要国では、家計や企業が有する中期のインフレ期待は、インフレ目標と概ね整合的な水準に抑制されていますが、これが今後も抑制され続けるのであれば、需要サイドのインフレを回避することができるはずです。

 供給サイドのインフレが顕在化する短期間の間は、景気に下押し圧力がかかりますが、それが過ぎれば、景気への悪影響が剥落し、企業業績が再び改善して、株価が上昇する局面が訪れるはずです。ホルムズ海峡を通じた中東からのエネルギー輸出が早期に回復するというメインシナリオの下では、こうした局面が比較的早めに来ると見込まれます。ただ、仮にそれが実現せず、ホルムズ海峡経由のエネルギー輸出が現状程度にとどまるというリスクシナリオが実現する場合でも、一過性の原油高によるインフレ効果が剥落するとみられる2027年中にはそうした局面が到来すると見込まれます。

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MC2026-104