グローバル株式市場のシナリオを前向きに見直す
要旨
主要国・地域のエネルギー輸入が回復=金融市場にとって朗報
エネルギー輸入国が輸入するエネルギー量がかなり回復してきたことで、グローバル市場の環境が変化しつつあります。
原油高によるインフレ問題は2027年4-6月期に概ね解決する公算
残る主要問題は、エネルギー価格の上昇によってインフレ圧力が顕在化している問題となります。しかし、これについても、期待インフレ率が抑制され続け、かつ、原油価格が今の水準からさらに上昇し続けない限り、原油高が前年同期比ベースでのインフレを押し上げる効果は2027年4-6月期には剥落し始め、その後は各国のインフレ率は本来の水準に落ち着いていくと見込まれます。
グローバル株式市場のシナリオを前向きに見直す
現在、私は米国中間選挙を前にしたイラン情勢の緊張緩和によって原油価格が緩やかに下落するという状況が比較的早期に実現することで、景気回復や主要中央銀行のハト派化が織り込まれ、それがグローバル株価の上昇につながるというシナリオをメインシナリオとして考えています。しかし、ホルムズ海峡経由のエネルギー輸送量が改善しないというリスクシナリオでは、短期的には金融市場における不透明感が継続します。エネルギー供給量が現行程度の水準を維持する限りは、2027年前半中にはインフレ減速による景気回復や中央銀行のハト派化が実現する可能性が高いと考えられるためです。これは、株式市場にとっては決定的な好材料になると見込まれます。今後、株式市場がこうした可能性を早期に織り込む可能性に注目したいと思います。
主要国・地域のエネルギー輸入が回復=金融市場にとって朗報
イラン戦争の勃発から半年が過ぎました。グローバル金融市場の先行きを考える上で、これまでは原油・天然ガスの供給が不足する問題とエネルギー価格の上昇によるインフレ問題が重要であり、それがどのような形で市場にインパクトをもたらすのかが投資家にとっての注目点であったといえます。この観点からはトランプ政権とイラン政府との交渉が長らく膠着するこれまでの状況は、投資家にとって先行きが不透明なもどかしい環境でした
しかし、私には、グローバル市場の環境が変化しているように思います。というのは、エネルギー輸入国が輸入するエネルギー量がかなり回復してきたためです。直近の諸報道によれば、ホルムズ海峡を通過するタンカーの量は、戦争開始前の少なくとも半分程度には戻っているようです。また、これまではホルムズ海峡経由で輸出されていた原油の一部が、パイプラインを使って紅海経由の輸出に切り替わりました。さらに、米国などでエネルギーを増産する動きが出てきました。これらの結果として、アジアや欧州の主要国・地域が輸入するエネルギー量は、イラン戦争前の水準に近づいています。特に日本、韓国、インド、台湾、シンガポールのエネルギー輸入量は、直近の統計では、戦争前の9割かそれ以上となりました(図表1)。中国のエネルギー輸入量は直近でまだ7割程度までしか戻っていませんが、中国のエネルギー輸入依存度がもともと20%程度であったことを踏まえると、中国がエネルギー調達で大きな問題に直面しているとは言えません(図表2)。欧州主要国については、イタリアやスペインの輸入量が100%程度であるのに対し、ドイツ、フランス、英国は80%台にとどまっています。しかし、フランスと英国のエネルギー輸入依存度は40%台であり、また、これらの国々においてエネルギーの備蓄量が少なくないことをふまえると、今のところは大きな問題と言えません。
これらの状況が示しているのは、主要国の多くがエネルギー供給の問題を概ね解決しつつあると言う点です。もちろん米国とイランの戦争がエスカレートして、中東地域のエネルギーインフラが大規模に破壊される事態となれば、それが世界のエネルギー供給に及ぼす影響は深刻と言わざるを得ません。また、来たる冬に欧州が厳しい寒波に襲われる場合にも、天然ガスの供給不足問題が経済活動に悪影響を及ぼす可能性があるでしょう。しかし、これらのケースが回避される限りは、投資家はグローバル経済におけるエネルギー不足問題をそれほど気にかける必要がないと言えるでしょう。
原油高によるインフレ問題は2027年4-6月期に概ね解決する公算
そうなると、残る主要問題は、エネルギー価格の上昇によってインフレ圧力が顕在化している問題となります。原油高に伴うインフレ圧力は既に多くの国・地域で顕在化しており、民間消費に下押し圧力をもたらしています。この背景もあってECB(欧州中央銀行)と日本銀行は既に利上げに踏み切ったほか、FRB(米連邦準備理事会)についても、イラン戦争が起きなければ利下げが視野に入っていたところが現状では利上げの可能性が議論されています。
ただ、幸いにも原油高によるインフレ圧力は、主要地域では供給サイドのインフレにとどまっており、期待インフレ率の上昇を通じて需要サイドのインフレに波及するような事は起きていません。期待インフレ率が抑制され続け、かつ、原油価格が今の水準からさらに上昇し続けない限り、原油高が前年同期比ベースでのインフレを押し上げる効果は2027年4-6月期には剥落し始め、その後は各国のインフレ率は本来の水準に落ち着いていくと見込まれます。
例えば、ブレンド価格ベースの原油価格はイラン戦争開始前に1バレル= 70ドル程度でしたが、それが直近では100ドル弱にまで上昇をしています。1バレルあたり30ドル上昇したわけですが、これが2027年にさらに30ドル上昇して1バレル130ドル程度になるのであれば、2027年のインフレ率は2026年と同様の水準になります。しかし、原油価格が1バレル=100ドル程度にとどまる限りは、他の条件に変化がなければ、インフレ率は現在の水準からイラン戦争前の水準に向けて下落していくはずです。これは消費者の実質ベースでの購買力の回復を軸とした景気の回復につながるはずです。
グローバル株式市場のシナリオを見直す
次にこうした観点を踏まえて、グローバル株式市場のシナリオを考えてみましょう。現在、私は米国中間選挙を前にしたイラン情勢の緊張緩和によって原油価格が緩やかに下落するという状況が比較的早期に実現することで、景気回復や主要中央銀行のハト派化が織り込まれ、それがグローバル株価の上昇につながるというシナリオをメインシナリオとして考えています(図表3)。このメインシナリオには変化はありません。このシナリオの下では、AI関連株への注目度はやや低下する一方、非AI関連株の分野では、幅広いセクターへの分散投資が銘柄選別を伴って進展するとみています。また分散投資は、セクター面で起こるだけではなく、地域的にも進展し、米国だけではなく、米国を含めたグローバル市場にバランスよく資金が流入する姿を想定しています。
他方でリスクシナリオは変更したいと思います。これまでは、中東地域からのエネルギー輸出が現状から改善しないシナリオをリスクシナリオとし、この際には、インフレ懸念と中銀のタカ派化懸念が継続すると想定していました。短期的にはこのリスクシナリオには変更はありません。非AI関連株への新規資金が細る状況が続くとともに、AI関連株には物色対象のローテーションを伴って、引き続き新規資金が流入すると想定しています。
しかし、このリスクシナリオの下で短期的には金融市場の不透明感が続くものの、その後は状況が前向きな方向に変化すると想定されます。なぜなら、エネルギー供給量が現行程度の水準を維持する限り、つまり供給不足の問題が景気に悪影響もたらさない限りは、このリスクシナリオの場合でも、先にふれたメカニズムによって2027年前半中にはインフレ減速による景気回復や中央銀行のハト派化が実現する可能性が高いと考えられるためです。これは、株式市場にとっては決定的な好材料になると見込まれます。インフレ減速を見通せる状況下では、長期金利も低下するでしょう。仮に、株式市場において半年先のマクロ経済環境についての見通しが織り込まれる形で株価が形成されるとすれば、2027年4-6月期以降の景気回復を見越して、今秋から株価がグローバルに上昇基調に転じる可能性も否定できません。足元の株式市場では、まだ不透明感が強い状況が続いていますが、前向きな方向への転換はそう遠くないと考えられます。
MC2026-105