グローバル・ビュー

7月FOMC:本当に「タカ派的据え置き」か?

Invesco Global View
要旨
金融市場は「タカ派的据え置き」と受けとめ

7月28~29日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場の大方の予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標が3.50~3.75%で据え置かれました。金融市場では、今回のFOMCについて、「タカ派的な据え置き」とする見方が多いようです。その背景としては、①利上げを求める反対票が3票もあったこと、②ウォーシュFRB(米連邦準備理事会)議長が、記者会見において、隠れたインフレ目標というようなものはなく、インフレ目標はあくまで2%であると述べたこと、があります。

ウォーシュ議長は本当にタカ派的なのか?

もっとも、私自身は、今回のFOMCの結果を「タカ派的な据え置き」と受け止める見方には賛成していません。ウォーシュ議長は、記者会見において、今回のFOMC会合で活発に議論された4つの論点について時間を割いて説明しました。それらは、直近で設置されたタスクフォースの内容と大きくかかわるものでした。今後の経済環境の変化次第ではあるものの、この4つの論点のうち、3つの論点は、議論が進行するにつれてFRBのハト派的なスタンスにつながる可能性があります。

 

金融市場は「タカ派的据え置き」と受けとめ

 7月28~29日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、市場の大方の予想通り、政策金利であるFF金利の誘導目標が3.50~3.75%で据え置かれました。この据え置きの決定に際して、FOMCで投票した12名のうち、3名の地区連銀総裁は「利上げが適切」として反対票を投じました。FOMCの声明文は前回から変更されず、金融政策の先行きを示唆するフォワードガイダンスについての記述はありませんでした。

 金融市場では、今回のFOMCについて、「タカ派的な据え置き」とする見方が多いようです。その背景としては、①利上げを求める反対票が3票もあったこと、②ウォーシュFRB(米連邦準備理事会)議長が、記者会見において、隠れたインフレ目標というようなものはなく、インフレ目標はあくまで2%であると述べたこと、があります。②について、ウォーシュ議長は、「過去5年間に高いインフレが続いたことでFRBは明示しない形で2%以上のインフレが目標とされているとの誤った印象を残してしまった。しかし、明示されない『柔軟なインフレ目標』というようなものはなく、2%というただ一つの目標しかない」と述べました。この言葉は2%のインフレ目標をしっかりと目指す姿勢を改めて明確にしたものであり、その意味で、タカ派的な発言と受けとめられたと考えられます。

 7月29日の米国株式市場では、AI関連株・非AI関連株がともに下落する形で、 S&P500種指数が前日と比べて1.52%下落しました。米国債券市場では、米10年国債金利が前日の4.61%から4.68%へと上昇しました。

ウォーシュ議長は本当にタカ派的なのか?

 もっとも、私自身は、今回のFOMCの結果を「タカ派的な据え置き」と受け止める見方には賛成していません。というのは、ウォーシュ氏はFRB議長として就任してからまだ42日しか経過しておらず、今後のFRBの政策に重要な影響を及ぼす5つのタスクフォースはまだメンバーの選定が終わったばかりの段階であるためです。ウォーシュ議長の心の中を推し量ることはできませんが、金融政策をきちんと推進していくためのフレームワークが整っていない中で拙速な利上げは避けたいという思いがあったのかもしれません。ウォーシュ議長は、記者会見において、今回のFOMC会合で活発に議論された4つの論点について時間を割いて説明しました。それらは、タスクフォースの内容と大きくかかわるものでした。以下でウォーシュ氏の発言と、それが示唆する点を考えてみたいと思います。青字は、7月29日における記者会見でのウォーシュ議長の発言です。

第一に、私たちは過去5年間にわたる高インフレが、現在の政策局面にどのような影響を及ぼしているのかについて多くの議論をしました。古い言い回しを借りれば、「過去は本当に過ぎ去ったのか」ということです。

この問題は様々な観点から議論ができると思われますが、過去のインフレ率が高かったという履歴効果によって、家計や企業が有するインフレ期待が高まり、それがインフレを生みやすい環境をもたらすという「適合的インフレ期待」についての議論につながる可能性があります。この「適合的インフレ期待」の効果が小さいという判断になれば、過去インフレ率が高かったからといって政策金利を高めの水準に据え置く必要がないことになります。

第二に、私と同僚たちは近年の経済ショックについて考察しました。パンデミックに起因するサプライチェーンの混乱、軍事紛争、エネルギー供給の障害、関税率の大幅な引き上げ、そしてもちろんAI関連投資の急増です。これらは発生源こそ異なりますが、その経済成長や雇用への影響もまた異なるのでしょうか。

FRBの金融政策上は、これらの経済ショックが、中期的なインフレやインフレリスクをもたらす可能性が特に重要です。おそらくは政治的な理由から明確には触れられていませんが、イラン戦争による原油高もここでの「経済ショック」に入ると考えられます。私の考えでは、イラン戦争による原油高や関税といった「経済ショック」は供給サイドからインフレを一時的に押し上げる要因にはなるものの、それが家計のインフレ期待を大きく押し上げない限りはインフレへの中期的なインパクトは生じません。この観点に立つなら、足元でこれらの要因で米国のインフレが押し上げられていることに対する利上げ対応は必要ではないことになります。

第三に、ショックに起因する価格上昇に関連した問題を取り上げました。例えば、設備投資(CAPEX)ブームによって、メモリー半導体やロジック半導体、さらには関連するAIインフラの価格が上昇しています。こうした価格変動は、より広範なインフレ圧力を示しているのでしょうか。それとも、街灯の明るい場所ばかり探してしまうように、単に目につきやすいから注目しているだけなのでしょうか。

ここで指摘されているAI関連投資の急増による価格の押し上げについても、第二のポイントと同様に供給サイドからインフレを一時的に押し上げる要因であり、それ自体に利上げという形で対応する必要性は薄いと思われます。

最後に、物価安定を実現するための金融政策の手段と戦略について議論しました。FRBが長年主張してきたように、金融政策の主要な手段は金利政策であるべきだとすれば、FRBのバランスシートからはどの程度の金融緩和効果がもたらされているのでしょうか。

ウォーシュ氏は、FRB議長への就任前からFRBのバランスシート拡大に対してデメリットが大きいと主張してきました。ウォーシュ氏としては、「FRBのバランスシートをさらに縮小させれば利上げと同じ効果がある、したがって利上げを実施する必要はない」との議論を展開したいのかもしれません。ただ、バランスシートの縮小は金融機関が保有する流動性の低下につながることから、他の多くのFOMC参加者がこの議論に賛同する可能性は小さいとみられます。私としては、この第4の議論を具体的に進展させることは難しいと考えています。

 以上の4つの論点は、いずれも今後のタスクフォースによる議論の対象であり、今秋以降、タスクフォースの提言を踏まえてFOMC内での議論が深化していくことになると考えられます。今後の経済環境の変化次第ではあるものの、第1から第3の論点を深めることがFRBのハト派的なスタンスにつながる可能性があります

 ウォーシュ議長は、前回のFOMC会合から今回の会合にかけて長期金利が名目ベース・実質ベースの両方で上昇した理由の一つが、前回の会合でフォワードガイダンスを廃止したことによるものであったことを指摘したうえで、それが「居心地の良さをもたらしてくれた」とコメントしました。これは、長期金利の上昇で金融環境が引き締まったことで利上げの必要性が薄れたことを歓迎している発言のように思えます。以上の諸点をふまえると、今回のFOMCでのコミュニケーションは必ずしも「タカ派的」ではなかったと考えられます

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