欧州バンクローン市場、月次アップデート 2026年9月
2026年8月の欧州バンクローン市場は、引き続き堅調な展開となりました。
S&P UBS Western European Leveraged Loan Index (以下「S&P UBS WELLI」または「指数」)の2026年8月のトータル・リターンは+0.55%となり、内訳は価格変動が+0.01%1、金利収入が+0.54%となりました。なお、年初来のトータル・リターンは+2.58%となっています1。
通常、8月は新規発行市場が閑散となるにもかかわらず、欧州バンクローン市場では活況さが続きました。また、CLO需要が例外的に旺盛だったことなどを背景に、セカンダリー市場のパフォーマンスも良好さが維持されました。投資家需要は引き続きクオリティが相対的に高いバンクローンに集中しており、低格付けかつディストレス銘柄に対しては慎重な見方が続いており、依然として同ゾーンのパフォーマンスは低迷しています。2
8月のCLO市場は極めて堅調に推移し、新規発行が6件、リセットやリファイナンスが16件と過去最高となる22件のCLOが取引されました。また、CLOマネジャーは、既存CLOのリファイナンス、再投資期間の延長、および加重平均残存期間を勘案した取引など、活発な動きが見られました。新規に発行された最上位のCLOノート(AAA格)のクーポンは、概ねEURIBOR+120〜130bp前後の水準で推移しました。資金需要が旺盛であったため、アービトラージ取引の環境が厳しくなっているにもかかわらず、CLOマネジャーはCLO発行を継続することが可能となりました。また、こうした状況は、バンクローン市場が活況となるテクニカル要因の一つとなりました。2
一方、8月は多くの発行体や投資家が夏季休暇に入ったため、新規発行市場は概ね低調となりました。バンクローンだけでなく、ハイイールド社債市場も、月を通してプライマリー市場は低調さが続きました。しかし、季節的な鈍化にもかかわらず、市場関係者は今秋には大規模な案件が控えていることを引き続き指摘しています。9月以降、欧州バンクローン市場では数社がスポンサーとなる大規模な買収、カーブアウト、およびリファイナンスなどが含まれる、約500億ユーロ規模の案件が供給されると見込まれています。2
欧州の経済成長は依然として緩やかなものにとどまっているものの、企業ファンダメンタルズは概ね堅調であり、ほとんどの発行体は引き続き十分な利益水準と流動性を確保しています。同時に、インフレ圧力が緩和していること、金利水準が安定していることなどが、投資家の信頼感を支えています。一部のセクターや個別銘柄では、引き続きリストラが活発化していますが、クレジット市場のファンダメンタルズが広範に悪化しているわけではないため、脆弱な状況は依然として個別銘柄に集中する傾向があります。
市場関係者は、今後バンクローン市場が夏季休暇以降に急速に活況になると予想しています。欧州の債券市場およびバンクローン市場で認識されているパイプラインは、数社がスポンサーとなる大規模な買収、カーブアウト、M&Aファイナンスなどを含め、約500億ユーロと推定されています。発行量の増加により、年前半に比べ需給はより均衡したものになると見込まれるものの、堅調なファンダメンタルズ、活発なCLO組成、および変動金利型クレジットへの継続的な需要が、引き続き市場を下支えすると見られます。デフォルトやリストラに関しては、市場全体への悪材料ではなく、依然として限られた事例に集中しています。
リターン:2026年8月
- 8月のS&P UBS WELLIのセクター別リターンでは、情報技術+1.60%と最も高いパフォ-マンスとなり、続いて化学の+1.30%、不動産の+1.29%となりました1。また、最も低いパフォ-マンスとなったのは食品・製薬の▲0.49%、続いてゲーム/レジャーの▲0.16%、食品/タバコの+0.05%となりました1 。
- 8月のS&P UBS WELLIの格付別リターンでは、「無格付」が+0.71%と最も高く、「スプリットBB」格が+0.69%、「B」 格が+0.62%となりました。一方、 「スプリットB」格が最も低い▲0.60%となりました1。
- 8月末におけるS&P UBS WELLI 構成銘柄の平均価格は、前月末の95.53ユーロから95.81ユーロに上昇しました1。同指数の3年ディスカウント・マージンは4.74%となり、前月末の4.85%から縮小しました1。
ファンダメンタルズ
エネルギー価格の高騰や不安定な中東情勢が継続していたにもかかわらず、8月の欧州市場は引き続き堅調に推移しました。2026年4-6月期のユーロ圏GDPは前期比0.4%増、企業景況感調査も2026年7-9月期まで景気拡大が続くと示唆していることから、各経済指標は予想外の好材料となっています。また、原油・ガス価格の上昇が総合インフレ率を押し上げた一方で、基調的なインフレ圧力は抑制されたままであり、欧州中央銀行(ECB)が慎重な政策スタンスを維持するとの見方が強まりました。全体として、成長力の改善、コアインフレの緩和、そして景気の下支えとなる財政支出が相まって、欧州のリスク資産市場にとって好ましい投資環境となりました。
今月も、エネルギー市場は投資家心理の主要な変動要因であり続けました。今月の大半、ブレント原油は1バレル90ドル前後9で推移しましたが、欧州にとってより重要なことは、供給懸念や地政学リスクが高まる中、天然ガス価格が上昇し続けたことでした3。ガス価格と電力価格の上昇により、ユーロ圏全体の総合インフレ率を押し上げ、インフレ低下の持続性に対する懸念が再び高まりました。しかしながら、貴重的なインフレは依然として抑制されており、エネルギーコストの上昇が広範な物価上昇圧力につながっているという見方は、現時点では明らかになっていません。
経済指標が堅調に推移していること、長期間にわたり金利が高止まりするとの見通しが広がったことなどを背景に、株式市場のパフォーマンスはまちまちな展開となりました。欧州株式市場は、成長見通しが改善していること、インフラ・防衛・産業投資に対する財政支援が継続していることを受け、比較的堅調に推移しました4。クレジット市場も概ね安定した展開となりましたが、ガス価格の上昇が利益率へ圧迫し、競争力が低下する懸念が高まったことから、エネルギー集約型のセクターはより選択的になりました。
経済活動が好調であること、エネルギー価格が上昇していること、投資家が今後の金融政策の方向性を見直していることなどを背景に、欧州の主要債券市場は軟調な展開となり、各国の国債利回りは押し並べて上昇する展開となりました。国債利回りの上昇は、経済情勢に対する信頼感が高まっていることを反映している一方で、エネルギーコストの継続的な上昇によって、インフレ率が目標水準に戻る時期が遅れるとの懸念も反映しています。
欧州のマクロ経済指標は、著しく堅調に推移しました。2026年4-6月期のユーロ圏GDP成長率は、エネルギー価格の急騰にもかかわらず前期比0.4%増に上方修正され、予想外の底堅さを示しました。また、企業調査でも2026年7-9月期も拡大傾向が続くことが示されています7。加えて、ユーロ圏総合購買担当者景気指数(PMI)は、8月までの経済成長率が年率約1.5%増のペースで推移していることを示しています5。なお、PMIは比較的広範囲のセクターでの改善を示しており、サービス業は堅調を維持、製造業はさらに安定的に推移しています。エネルギーコストの上昇にもかかわらず、企業景況感も良好に推移、内需が引き続き景気回復を支えていることを示唆しています。
インフレはより複雑な展開となりました。ガスや原油価格の上昇に伴い、総合インフレ率は再び3%を上回ったものの、コアインフレ率は2.4%前後まで鈍化し、物価上昇圧力は引き続き緩和傾向であることを示唆しています。エネルギーコスト上昇は明らかなリスクとなっているものの、副次的なインフレリスクは限定的であることから、金融当局は多少安堵していると思われます。
堅調な経済成長、エネルギー価格の上昇、総合インフレ率が依然として高止まりしている状況下、ECBが慎重かつ引き締め的な金融政策を維持するとの見方が強まりました。8月末にかけては、9月にさらに25bpの利上げが行われるとの見方がますます織り込まれました3 。(ECBは9月10日に25bpの追加利上げを発表し、政策金利は2.50%となりました8)。一方、コアインフレ率が鈍化していることから、利上げサイクルは最終段階にあるとの見方が広がっています 。
当月の主な動きは以下となります。
- エネルギー価格の高騰にもかかわらず、欧州の経済成長は引き続き堅調に推移しています。ユーロ圏の2026年4-6月期のGDP成長率は予想を上回る前期比0.4%増となったほか、8月は企業景況感調査も改善しました。PMIは年率換算で約1.5%の経済成長を示しており、外部環境がより厳しい状況にあるにもかかわらず、内需とサービス業が引き続き景気回復を支えています。
- 天然ガス価格が、再び欧州における主要なマクロ経済リスクとなっています。ガス価格と電力価格の上昇により、8月の総合インフレ率は3%を上回りました。しかしながら、コアインフレ率は2.4%前後まで鈍化しており、全体的な物価上昇圧力は依然として抑制されています6。総合インフレ率とコアインフレ率が乖離しているため、ECBが追加利上げを行うことが予想される一方で、中期的にはインフレが高進する可能性を高めています。
- 8月末現在、モーニングスター欧州レバレッジドローン指数における過去12カ月のデフォルト率(額面ベース)は1.62%でした10。過去平均は年率2.61%となりました10。
投資機会
市場環境が改善したこと、投資家の需要が旺盛であったことなどを受け、8月までの期間を通じ、新規発行市場は活況を呈しました。新規発行市場およびセカンダリー市場の双方で、高格付けクレジットに対する需要が引き続き堅調であるため、発行額もバンクローン価格も安定的に推移しました。欧州経済の堅調な成長、旺盛なCLO需要、良好な市場環境などを背景に、エネルギー市場でのボラティリティが再び高まったにもかかわらず、今後とも欧州バンクローン市場は堅調に推移し、選別的な投資機会に恵まれていると見られます。
G2026-06-011
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