原油高下のAI株堅調と今後のシナリオ
要旨
原油高止まりで債券安、AI株高、非AI株安に
中東情勢の悪化でエネルギー価格が想定外に上振れしており、先行きについてもエネルギー価格の下落が見通しにくい状況となってきました。投資家が債券投資や非AI株投資に慎重になる中、AI株が消去法的に買われる動きが表面化してきました。これは私が従前よりリスクシナリオ下で想定していた状況です。原油価格の有意な下落が見通せなくなったことを受けて、従前はリスクシナリオとして想定していたシナリオをメインシナリオに修正したいと思います。
2027年中には債券高・株高局面へ
もっとも、エネルギー価格の高止まりによるインフレ押し上げ効果は、2027年の半ばまでには剥落する可能性が高いと見込まれます。これが欧米における主要中央銀行のハト派化を招来すると見込まれます。2027年に入ると、インフレ減速や主要中央銀行のハト派化の可能性が、金融市場にとっての好材料として織り込まれ始め、債券高や株高につながる可能性が高いと考えています。中東からのエネルギー輸出の増加を予見させるような兆しが出てくれば、金融市場のポジティブな動きが2026年中に顕在化する可能性もあります。
米国のインフレが重要なリスクに―米中間選挙も要注意
この「2027年株高・債券高シナリオ」が実現するには、いくつかの必要条件を満たす必要があります。最も重要な必要条件として、11月3日に実施される米国の中間選挙で共和党が大勝せず、トランプ政権が提案する成人1人あたり5,000ドル給付政策が実施されないことを挙げたいと思います。
原油高止まりで債券安、AI株高、非AI株安に
イラン情勢の改善が見込みにくい状況下で原油価格が高止まりしています。ブレント原油価格は7月初めには1バレル=71ドル台まで落ち着きましたが、執筆時点(10月7日)では1バレル=100ドルを超える水準にあります(図表1)。私は、11月初旬の中間選挙を前にしたトランプ大統領がイランとの停戦交渉で何らかの妥協を講じることで情勢は安定化に向かうとの見方をしてきましたが、現段階では米国・イランの妥協による緊張緩和は非常に見通しづらい状況となっています。先物市場でも、2027年末時点での原油価格が大幅に上振れており、金融市場における原油価格の見通しが上方修正されたことを示唆しています(図表2)。一方で、ホルムズ海峡を経由した中東からのエネルギー輸出は戦争前の水準の少なくとも半分程度には回復している模様です。アジアや欧州の主要国は中東以外の地域からのエネルギー輸入を増やすとともに、代替ルートによる中東からのエネルギー調達を増やすことでエネルギーの供給不足問題を解決しつつあります。この点はグローバル経済にとっては朗報であり、グローバルにスタグフレーションが生じるリスクはかなり低下したと言ってよいでしょう。
現在の状況は、当レポートの9月10日号(「グローバル株式市場のシナリオを前向きに見直す」)で想定した「メインシナリオ」の実現可能性が低下し、「リスクシナリオ」の実現可能性が高まったことを示唆しています。私が想定していたリスクシナリオは、中東地域からのエネルギー輸出量がそれほど大きくは改善せず、原油価格が高止まりする下で、グローバル市場がインフレ懸念を強め、主要な中央銀行がタカ派化する懸念が続くというものでしたが、グローバル市場では中東情勢の膠着を受けて、このリスクシナリオに沿った動きが強まっています。こうした状況をふまえて、これまでの「リスクシナリオ」を「メインシナリオ」に変更します(図表3)。
グローバル金融市場では、過去1か月間に主要国の長期金利が大きく上昇しました。米国の10年国債金利は9月初めには4.8%付近でしたが、原油価格の高止まり見通しが強まったことやそれがFRBの金融政策スタンスのタカ派化につながるとの見方が強まったことで、直近では5.3%台に上昇しました。金利上昇の波が他の主要国の長期債市場に波及したことは言うまでもありません。グローバル株式市場では、直近でAI株が見直され、マグニフィセント7の株価上昇が目立っています(図表4)。これは、①債券安が続いてきたことで投資家が債券投資に慎重になってきたことに加えて、②原油高によるコスト上昇が非AI株の業績への不透明感を強めたことで非AI株に積極的に投資しづらい環境になってきたことから、中長期的な利益への期待感が強く、しかもPERでみてまだ割安圏内にあるとみられるAI株が消去法的に買われてきたことを反映していると考えられます(図表4)。
2027年中には債券高・株高局面へ
もっとも、当レポートの9月10日号でふれたように、エネルギー価格の高止まりによるインフレ押し上げ効果は、2027年の半ばまでには剥落する可能性が高いと見込まれます。金融市場では、主要先進国におけるインフレ率は、2027年の半ばまでには、イラン戦争前に近い水準に低下するという見方がコンセンサス(図表5をご参照下さい)であり、私もその見方に同意します。インフレ率の実際の落ち着きを確認できれば、欧米の主要中央銀行は2026年にいったん引き上げた政策金利を再び引き下げることを議論し始めるでしょう。これは長期金利低下の動きをもたらすはずです。また、①インフレによる企業業績悪化への懸念が薄れること、②金融緩和の可能性が視野に入ることは、グローバル株式市場にとって朗報となります。これは、非AIセクターの多くに恩恵をもたらす可能性が高いと考えられます(図表6)。
こうした状況下では、AI株に集中していた関心が薄れることが、AI株にとって逆風となります。しかし、主要なAI株については、今後の技術革新や新しいサービスの展開によって期待EPSが上方修正されるというこれまでの傾向が続くとみられ、その点は株価の持続的な上昇をサポートしていくと見込まれます。特に、AI株がPERなどの指標でみて現状のような割安圏にとどまる場合には、その可能性が高いと言えるでしょう。
私は、2027年に入ると、グローバル市場では、以上でふれたようなインフレ減速や主要中央銀行のハト派化の可能性が、金融市場にとっての好材料として織り込まれ始める可能性が高いと考えています。ただし、中東からのエネルギー輸出の増加を予見させるような兆しが出てくれば、金融市場のポジティブな動きが2026年中に顕在化する可能性もあります。
米国のインフレが重要なリスクに―米中間選挙も要注意
この「2027年株高・債券高シナリオ」が実現するには、いくつかの必要条件を満たす必要があります。第1の必要条件は、11月3日に実施される米国の中間選挙で共和党が大勝しないことです。トランプ大統領は中間選挙で共和党が上下両院で多数派を維持する場合に米国の成人1人あたり5,000ドルを給付する意向を表明しています。共和党が大勝する場合には、この5,000ドル給付政策が実施されることで、米国の消費が一時的に大きく増加し、需要サイドからのインフレ圧力を生む可能性が高まります。バイデン政権下の2021年3月に実施された米国民への1人当たり1400ドル給付プログラムは、コロナ禍で供給不足問題が起きていたこともあり、その後の消費の急増による高インフレを招きました。これよりも規模の大きい給付金プログラムは、同様の高インフレにつながり、FRBのタカ派化と企業収益への大きなダメージをもたらすリスクがあります。
第2の必要条件が、中東情勢の悪化による原油価格のさらなる高騰が起きないことです。戦争の激化によって中東のエネルギーインフラが打撃を受ければ、原油価格がさらに数十%上昇し、グローバル経済が全体としてスタグフレーションに陥るリスクが高まります。第3の必要条件は、AI関連投資の急増が物価全般に波及しないことです。現在、AI投資は米国景気を強力に支えていますが、エレクトロニクスや建設などの分野でのボトルネック的な価格引き上げの動きが他の多くの産業に波及するようなことがあれば、金融市場にとっての打撃となります。このほか、足元のエネルギー価格上昇が米国の消費者の期待インフレ率を大きく高めて、需要サイドからのインフレ圧力が強まる事態も避けねばなりません。これらの必要条件が整っていけば、2027年株高・債券高シナリオの実現可能性が高まるでしょう。
MC2026-114